0.はじめに
前回のコラム「身元保証契約に基づく損害賠償請求とは」では、裁判例を通じて、身元保証契約に基づく損害賠償請求における2つのポイント…使用者の監督者責任と身元保証人へのリスク通知の必要性を考えてみました。
今回は、「身元保証に関する法律」を中心に、身元保証契約を取り交わす際の実務的な注意点をみていきたいと思います。
1.契約の有効期間
被用者の身元を保証するといっても、契約の有効期間には制限があります。
身元保証契約は、期間を定めなければ3年(同1条)。期間を定めた場合でも5年が最長で、これより長い期間の定めや自動更新の定めは無効となります。
引き続き身元保証が必要となる場合には、あらためて期間満了時に更新契約を結ばなければなりません(同2条1項)。
2.民法改正の影響
採用時の身元保証契約は、契約の締結時には損害が生じておらず賠償額も確定しません。つまり、身元保証人となる時点では、現実にどれだけの賠償額を保証するのかが分からない状態にあります。
このような契約を、法的には「根保証契約」と呼びます。
この「根保証契約」について、2020年4月に改正民法が施行されました。
個人の根保証契約において、保証する債務(身元保証契約でいうところの賠償予定額)の上限額に定めがない契約は無効とされることとなりました。
そのため、今後は賠償の上限額を定める必要が出てきたため、どのようにして上限額を決めるかが問題となります。
根拠のない過大な金額を契約内容とすることは公序良俗に反し無効となりますので、労働者の職務の性質などを考慮し、損害リスクをあらかじめ見積もっておくことが必要と思われます。
あくまでひとつの考え方ですが、労働の対価である給与請求権に着目し、支払う給与額を考慮した上限を定める(例:給与の○ヶ月分相当額、年収の○%相当額など)といった形がありうるでしょう。
3.使用者の通知義務
身元保証人が、労働者の現況を何も知らされないままで損害賠償責任を負わされることを防止するため、次の事項に該当する場合、使用者は遅滞なく身元保証人に通知する義務があります(同3条)。
- 労働者に業務上不適任や不誠実な事柄があった場合
- 労働者の任務や任地を変更があった場合
使用者からこの通知を受けた身元保証人は、以後の身元保証契約を一方的に解除することができます。
また通知を受けていなくても、身元保証人がこのことを知った時点で同様に契約を解除できるため、注意が必要です(同4条)。
もっとも、使用者が通知を怠った場合でも、身元保証人が解除しなければ原則として契約は継続します。身元保証人に損害賠償を請求することができなくなるというわけではありません。
ただし通知を怠った場合、裁判所の判断によって身元保証人の損害賠償の範囲が限定されたり、損害賠償自体が認められなくなる可能性が生じるリスクがあります。
通知は確実に行い、状況によっては通知の時点までに生じた損害に限定して賠償を求めるなど、状況に応じた対応を検討すべきでしょう。
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