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0.はじめに

前回コラム「採用時の身元保証契約は有効か」では、何気なく取り交わされている身元保証契約の意義と活用を中心に、その全体像を解説しました。

今回は更に少し掘り下げて、身元保証契約に基づく損害賠償について考えてみたいと思います。

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1.身元保証人の損害賠償責任の限定

身元保証契約を締結しているからといって、損害の全額を身元保証人に請求できるわけではありません。

実際に身元保証契約に基づく損害賠償請求が争われる場合、裁判所は次のような事情を総合的に考慮し、その賠償の範囲を判断します。

■裁判所によって考慮される事情

  1. 労働者の監督に関し、使用者の過失の有無
  2. 身元保証人が、労働者の身元保証契約を引き受けた経緯・事情
  3. 身元保証人が、身元保証契約を引き受ける際にどの程度の注意を払っていたか
  4. 被用者が従事する職務や身上の変化など

通常、身元保証人に請求できる損害賠償額は大幅に減額されると認識しておきましょう。

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2.使用者の監督責任が問われる

使用者の監督責任が加味された事件に「丸山宝飾事件(東京地判平6.9.7判時1541号104頁)」があります。

本件は、宝石店の従業員が、不注意から宝石類の入ったカバンを盗まれ会社に損害を与えたというものです。裁判では従業員の重過失を認定しつつも、会社が盗難保険に加入していなかったことなどを使用者の過失と判断。従業員およびその身元保証人に求められる損害賠償の範囲を決めています。

ここでは、使用者の監督責任が問われていることが分かります。

ここから学べることは、業務フロー上、従業員の過失により損害を被るリスクが高い行動を明らかにし、客観的にリスクヘッジできる方法を採用することで、リスクを未然に低減する必要がある、ということでしょう。

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3.賠償額回収の実際

裁判所は、従業員本人が負担すべき損害賠償の範囲を損害額の50%、身元保証人が負担すべき損害賠償の範囲を、従業員本人が負担すべき損害額の4割(つまり、全体の損害額の20%)を相当としましたが、実際にこれを支払ってもらうのは簡単ではありません。

採用時に労働者本人の支払能力が不確かであるという理由から、身元保証人を立てるケースが一般的です。

つまり、身元保証人の方が支払能力があることが多いのです。

そのため、仮に身元保証人から支払ってもらえたとしても、残額を労働者から回収できないという事態が想定されます。

労働者の給与や賞与、退職金などとの相殺も考えられますが、労働法による制限や、退職金が企業年金であった場合は相殺できないほか、雇用契約から生じる制約もあります。

損害額の回収だけをみれば、使用者側としては身元保証人からより多くの賠償額を支払ってもらいたいところですが、そのようなことが可能なのでしょうか?

この点について本件を振り返ってみると、身元保証人の責任範囲を軽減する際に、身元保証契約に関するリスクを身元保証人に十分に通知していなかった、という事情が考慮されているのが分かります。

裏を返せば、身元保証人に、身元保証契約を求める必要性や契約のリスクを事前に伝え、同意の下で契約を取り交わしていたことが証明できれば、身元保証人の損害賠償責任の範囲が大きくなっていたかもしれません。

このことから、契約締結時の説明と同意という基本的な行動が、重要なリスクヘッジの方法の一つということがお分かり頂けるでしょう。

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この記事を書いた人

今坂 啓

上場企業社員(経営・財務戦略系以外)

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社会保険労務士有資格者として、人事労務の第一線にて実務を担っております。

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