労働者が退職届提出後業務引継ぎをせずに欠勤し、そのまま退職することがある。
近年の退職代行サービスの多くがこのような体裁で退職を行うが、その場合の雇用契約終了や退職金支払、損害賠償請求、懲戒解雇等に関して争いが生じるという問題がある。
企業にとっては、突然職務放棄をされると業務上支障が生じる。
使用者側にもサービス残業やパワハラといった労基法違反等の帰責事由があれば別であるが、もし労働者側が特に合理的理由を主張・立証できない場合はどうか。
「成績不良の社員が退職の挨拶を終わらせた後に、懲戒解雇を行い退職金不支給とした裁判例」
退職の挨拶時点で労働契約は有効に合意解約されたものとして、事後の懲戒解雇は退職金請求を拒絶することを目的とした不法行為に当たるとされた。
「会社の承諾なしに退職した者は退職金不支給とするとの就業規則に関する裁判例」
このような就業規則の定めは労働法上公序良俗に反し無効とされた。
「退職時に仕事に支障をきたした場合は退職金を支払わない旨の就業規則に関する裁判例」
退職金を労働契約の債務不履行について損害賠償に充てることになるため、労基法16条、24条に違反するとされた。
「労働者が入社早々に病気のため欠勤し退職したことで会社が取引を失い、その後労使で200万円の賠償を約した例」(ケインズインターナショナル事件)
突然の退職による1000万円の損害がみとめられたが、会社にも帰責事由があったとして70万円の支払いを命じた。
上記裁判例では、労働者の職務放棄によって、どの程度の損害が生じたかが大きな判断要素となったことがうかがえる。
その他、退職金不支給や減額規定を設ける就業規則を有効とした裁判例も存在する。
したがって、退職時には、労働者の有給休暇や退職の態様のみならず、就業規則での有効な定めや、実際の職務上の支障の程度、企業側の帰責事由、その他信義則上の問題等、多くの要素を基に判断が下される。
労働者の過失に基づく損害賠償請求に関する一般論
使用者がその事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態度、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他の諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。
このような裁判例により、責任制限の法理が明らかにされ、この事件においては信義則上4分の1を限度として求償を求めた。
労働者の責任制限の基準
労働者の責任制限の基準として、
労働者の帰責事由、地位、職務内容、労働条件、
損害発生に対する使用者の寄与度、リスク分散の有無等
を考慮すべきとされ、責任を否定したり、認めても1/3前後にとどまることが多い。
負担割合を判断する際の要素として、労働者の過失の程度、使用者側の教育・管理体制の不備、老土砂の状況(資力等)を考慮すべきである。
少なくとも、使用者が予測可能な事故等に関し、企業側の予防・管理体制が不足していた場合は、労働者の責任は認められづらいものと思われる。
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