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この記事でわかること
- 社債とはそもそも何か
- 社債の分類
- 少人数私募債・銀行引受私募債・公募債・CP、それぞれの流れや必要な書類、注意ポイント
はじめに
社債とは、会社自らが発行する債券のことです。
会社は、投資家や銀行にそれを買ってもらうことで、事業運営のために必要な資金を調達できます。
国内で2020年に発行された社債の総額は、過去最高の15兆円でした。日本銀行が、新型コロナウイルス感染症の影響から企業を救おうとして、積極的に購入を行った結果と見られています。
本記事では、社債発行で知っておきたい前提知識を見た上で、各社債の主な流れや必要書類などをご紹介します。
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1.社債発行の前提知識
社債発行でおさえておきたいのは、発行手続きができる機関、社債の分類、募集要項の主な内容です。それぞれ、詳しくご紹介します。
①発行手続きができる機関
会社法によれば、社債発行は、株式会社に加えて、合名会社・合資会社・合同会社の3社(いわゆる持分会社)も発行できます。
株式会社で発行する場合、取締役会を設置している会社は、取締役会に意思決定権があります。取締役会で決議が得られなければ、社債は発行できません。
一方、取締役会を設置していない会社は、取締役もしくは取締役の過半数の決定によって発行手続きができます。
②社債の分類
社債は、「誰に向けて発行するのか」によって、いくつかに分類されます。
特定の投資家に対して発行する社債は私募債、不特定多数の投資家に対して発行する社債は公募債です。
私募債の中でも、縁故者に発行するなら少人数私募債、少数の機関投資家に発行するならプロ私募債と分かれます。さらに、プロ私募債の中でも、銀行に対して発行するなら銀行引受私募債となります。
今ご紹介した社債は、あとで詳しく見るように、償還期間が3年以上と長期間です。それとは別に、償還期間が短い社債は、CP(コマーシャル・ペーパー)と呼ばれます。
③募集要項の主な内容
社債発行では、会社法に従い、その社債の募集要項を事前に決定します。
募集要項とは、社債の具体的な内容です。メーカーが、事前に商品の値段や特徴を設定するイメージを持つと、わかりやすいかもしれません。
以下、一部をご紹介します。
- 募集社債の総額
- 各募集社債の金額
- 募集社債の利率
- 募集社債の償還の方法及び期限
- 利息支払いの方法及びその期限
- 社債券を発行するときは、その旨
詳しくは、会社法第676条をご確認ください。
募集要項は、社債の種類によって募集要項の決め方やタイミングは異なりますが、決めなければならない内容は同じです。
そのため、どの社債を発行するかを決めたら、その社債の主な流れをおさえておくことが重要と言えるでしょう。次章以降で詳しくご説明します。
④社債発行の必要書類
社債発行では、各社債ごとにさまざまな書類が必要です。ここでは、いずれの社債を発行するにしても、用意しておかなければならない主な書類をご紹介します。
- 社債申込証
- 社債募集決定通知書
- 社債払込金預り証
- 社債原簿
なお、本記事では、これらの書類を「共通書類」と呼ぶこととします。
2.少人数私募債
ここからは、各社債の特徴や資金調達までの流れ、必要書類について見ていきましょう。具体的に見ていくのは、少人数私募債・銀行引受私募債・公募債・CPの4つです。
はじめに、少人数私募債からご紹介します。
①特徴
少人数私募債は、50人未満の縁故者(親族・従業員・取引先など)に向けて発行し、買い取ってもらうことで資金を得ます。
未上場企業の場合、金融機関からの融資がメインとなりがちです。融資が受けられないと、途端に資金繰りが苦しくなるケースが少なくありません。
少人数私募債は、金利や償還期間を自由に決められる、引き受けてくれる縁故者がいれば簡単に資金調達ができるといった特徴があり、上場していない中小企業に適しています。
また、自治体の中には、少人数私募債に対して補助金を給付する制度を設けているところもあります。投資家の選定や募集、発行、補助金が届くまでのサポートを行うサービスも見られます。
項目 | 詳細 |
---|---|
発行企業 | 未上場企業 |
引受人 | 縁故者(50人未満) |
発行額 | 数千万円程度 |
手数料 | 不要 |
償還期間 | 3~5年 |
担保 | 無し |
②資金調達までの流れ
資金調達までの流れは、以下の通りです。
③必要書類
少人数私募債は自社内で発行作業ができるため、上記の共通書類を用意すれば問題ありません。
④注意点
・社債を購入してもらう人数について
少人数私募債では、「少人数」と名前がついているように、社債を買ってもらう人数のルールが厳格に決められています。
このルールを逸脱すると、少人数私募債ではなく公募債となり、場合によっては発行できなくなるため注意が必要です。
人数の扱い方には、以下3つの特徴があります。
特徴 | |
---|---|
1 | 50人未満は、私募債を引き受けたした人数ではなく勧誘した人数。たとえば、少人数私募債を発行する説明会を開催したら、参加者全員がカウントされる。 |
2 | 過去6ヶ月以内に類似の少人数私募債を発行している場合は、その勧誘人数が含まれる。前回の人数が20人であれば、29人までしか誘うことができない。 |
3 | 私募債を引き受けた人が、別の人に一部を譲った場合はプラス1人となる。ただし、全部譲った場合は増えない。 |
特に3番目は、管理の及ばないところで起きることが多いため、譲渡制限を付けるのがマストとなっています。
・発行総額について
発行総額は、最低券面額の50倍未満にしなければいけません。例えば、最低券面額が100万円なら発行総額は4,900万以下となります。
・縁故者への配慮について
金利や償還期間が自由に決められるとはいえ、縁故者を相手にするため配慮は必要です。実際に決められた期間内に返済できなければ、プライベートの関係にも影響が及ぶトラブルに発展しかねません。
また、そもそも募集要項が現実的だと思われなければ、資金調達もままならないでしょう。
募集をかける前に経営者自らが縁故者と信頼関係を築いておくこと、今後どのように事業を運営していくのか事業計画書を作成して具体的な見通しを提示すること、どのような返済プロセスを考えているのか明確に説明することが大切です。
3.銀行引受私募債
①特徴
銀行引受私募債は、銀行に向けて発行する社債です。銀行が設定する要件を満たせば、発行できます。
項目 | 詳細 |
---|---|
発行企業 | 未上場企業 |
引受人 | 銀行 |
発行額 | 数千万円~数億円 |
手数料 | 引受手数料、財務代理手数料、保証手数料など |
償還期間 | 3~5年 |
担保 | 無し(場合によって付けることもある) |
②資金調達までの流れ
資金調達までの流れは、以下の通りです。少人数私募債と異なり、募集要項の作成は、取引銀行の条件をヒアリングした上で行います。
③必要書類
必要な書類は、共通書類のほかに以下が挙げられます。
必要書類 |
---|
取締役会議事録のコピー |
印鑑証明書 |
④注意点
・譲渡不可
銀行引受私募債は、他の投資家(個人投資家や身内など)に譲渡はできません。
あくまで適格機関投資家(銀行や証券会社、保険会社)に向けて発行されるもののため、社債の券面に、譲渡を禁止する文言を入れる必要があります。
・コストがかかる
発行や保証の付帯、金利など、手数料だけで数百万円程度必要になることが多いです。初期手数料が、券面額の1/10かかった事例もあります。
⑤その他
銀行にとって私募債の引き受けは、メインバンクとしての実績になります。公式ホームページで公開しているところが多いので、どんな企業が発行しているのか参考にするのもいいでしょう。
(例)
4.公募債
①特徴
公募債は、不特定多数の投資家に向けて発行する社債です。
格付けや高い信用力が求められるため、将来的な資金調達方法として捉えておくといいでしょう。
項目 | 詳細 |
---|---|
発行企業 | 上場企業 |
引受人 | 不特定多数の一般投資家 |
発行額 | 数十億~数百億 |
手数料 | 事務代行手数料、登録手数料、引受手数料など |
償還期間 | 3年~20年 |
担保 | 無し |
②資金調達までの流れ
公募債による資金調達は、証券会社と連携しながら行います。
まず、証券会社に必要な資料を提出して、公募債を発行したい旨を伝えます。
書類を受け取った証券会社は、主幹事証券会社となって複数の関係業者に「公募債の販売を手伝ってくれないか」と声をかけ、ひとつの団体を結成します(これを引受シンジケート団と言います)。
公募債の募集要項は、引受シンジケート団が組成されてから決定するのが一般的です。内容が確定したら、引受シンジケート団が各証券会社に販売を依頼し、引受シンジケート団経由で資金を調達します。
③必要書類
共通書類のほかに、以下の書類を用意しましょう。
必要書類 |
---|
引受審査資料 |
発行登録書 |
有価証券届出書 |
目論見書 |
④注意点
・社債管理者が必要
公募債を発行するには、債務不履行時に裁判手続きなどをしてくれる社債管理者を置く必要があります。銀行や信託会社に依頼するのが一般的です。
・情報の開示義務が発生
具体的には有価証券届出書の提出、有価証券報告書の開示、目論見書の交付などが求められます。投資家が安心して購入するために不可欠な要素です。
・財務上の特約(コベナンツ)の遵守
社債に関する一定の条件を守れなかったときは、財務上の特約に記載された対処をしなければいけません。
5.CP(コマーシャル・ペーパー)
最後に、CP(コマーシャル・ペーパー)について見ていきましょう。
①概要
CPは、これまで紹介してきた社債と異なり、短期の運転資金を調達するのに向いている社債です。近年では、電子版も発行されています。
項目 | 詳細 |
---|---|
発行企業 | 上場企業 |
引受人 | 主に機関投資家 |
発行額 | 1億円以上 |
手数料 | 新規記録手数料、引受手数料など |
償還期間 | 1年未満(1ヶ月程度が多い) |
担保 | 無し(場合によっては付けられる) |
②資金調達までの流れ
CPの発行は、証券保管振替機構の短期社債振替制度を利用するといいでしょう。
③必要書類
必要書類は以下の通りです。共通書類とあわせて用意しておきましょう。
必要書類 |
---|
登記事項証明書 |
印鑑証明書 |
証券保管振替機構が定める書類 |
④注意点
・売却金額
券面額ではなく、金利分を引いた金額で販売します。
・担保について
CPは、基本的に無担保です。資産を担保にしたABCP(asset-backed commercial paper)もありますが、こちらは日本ではあまり普及していません。検討する際は留意しておいてください。
まとめ
社債 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
少人数私募債 | 資金調達の流れがシンプルな社債。縁故者がいれば発行可能。 | 人数の扱い方が複雑。金利や償還期間に配慮する必要がある。 |
銀行引受私募債 | 銀行の要件を満たすことで発行が可能 | 譲渡ができない。資金調達時に大きなコストがかかる。 |
公募債 | 不特定多数の投資家に向けて発行する社債。上場企業向き | 社債管理者が必要。情報の開示義務有。決められた条件を守れない場合はコベナンツに従う。 |
CP | 短期の運転資金を調達するのに最適な社債 | 基本的には担保なし。担保ありのCPもあるが、あまり普及していない。 |
おわりに
社債発行による資金調達方法は、企業の規模によって適したものが明確に分かれます。
初めて利用する中小企業であれば銀行引受私募債、スタートアップ企業は少人数私募債を選ぶといいでしょう。
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