ストック・オプション価値を算定!役立つ前提知識と便利な計算式3つ
- 資本政策
- 株価算定
- ストックオプション
- 税制適格ストックオプション
- ブラック・ショールズ式
- 二項モデル
- モンテカルロ・シミュレーション
- 通常型ストックオプション
- 株式報酬型ストックオプション
- 有償型ストックオプション
- 権利行使価額
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Index
この記事でわかること
- ストック・オプションの価値算定で用いられる3つの方法
- ストック・オプションの代表的な3種類の特徴
- 税制適格ストック・オプションの特徴と適用させるための条件
はじめに
ストック・オプションを付与したとき、基本的には「企業会計基準委員会・ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」に従い、費用計上することになります。ストック・オプションの価値算定は、その金額が「ストック・オプションの価値×付与したストック・オプションの数」のため重要です。
この記事では、ストック・オプションの、3つの代表的な価値算定方法をご紹介しています。合わせてストック・オプションの種類や、税制適格ストック・オプションについても解説しているので、実務の参考としてください。
またKnowHowsでは、ストック・オプション設計に便利な、「資本政策シミュレータ」や「株価算定ツール」を無料でご利用頂けます。
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1.ストック・オプションの価値算定方法
ストック・オプションの代表的な価値算定方法は、ブラック・ショールズ式、二項モデル、モンテカルロ・シミュレーションのいずれかを用いるのが一般的です。これらの基本事項をご紹介した上で、順に解説します。
①ストック・オプションの価値算定における基本事項
・算定の対象となる期間について
ストック・オプションの評価対象期間は、いずれの方法を用いるにしても、ストック・オプションを付与した日から権利が確定した日までです。ストック・オプションが、この期間に従業員等のモチベーションや働き方に大きな影響をもたらすため、とされています。
・価値算定における重要な数値について
ストック・オプションの価値算定を行うときは、いずれの方法を用いるにしても、次の数値を事前に調査・算定しておくとスムーズです。
数値 | 補足 |
---|---|
ストックオプションの数 | 取締役会 or 株主総会で決められた総合計 |
権利行使価額 | あらかじめ決められた株式の払込金額。従業員等にとって、この金額と権利行使時点の株価との差額がインセンティブとなる |
権利行使されるまでの期間 | 権利が付与されてから、実際に従業員等が株式に払込を行う期間 |
権利付与時点での株価 | ー |
株価変動性 | 別名ボラティリティ。権利が付与されてから従業員が権利を行使するまでの予測を、過去の株価実績を元にして見積もる |
将来の株価に対する配当率 | 権利が付与されてから権利を行使するまでの間に発生したであろう配当額を、株価で割って算出した割合 |
無リスク利子率 | 別名リスクフリーレート。国債のものを用いるのが一般的 |
・上場企業と未上場企業の違いについて
未上場企業は、上場企業と異なり、株価変動性(ボラティリティ)の算出が容易ではありません。そのため、ストック・オプションの本源的価値(権利付与時の株価と権利行使価額の差額)で会計処理をしてもいい、とされています。
(参考:企業会計基準委員会・ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針 第59項)
ただ権利付与時の株価より権利行使価額のほうが高く設定した場合は、本源的価値がゼロとなり、計上する必要もなくなります。
②ブラック・ショールズ式
将来の株価が常に連続的に変動すると仮定する、連続時間型モデルのひとつです。公式がすでに完成されているのでExcelを使えば簡単に求められる、必要な数値も市場から入手しやすいのがメリットとしてあります。1から3の順に計算を進めるといいでしょう。
ブラック・ショールズ式の計算手順 | |
---|---|
数式 | |
補足 | Ln(S/K)=自然対数(≒2.7182) |
r=無リスク利子率(リスクフリーレート) | |
q=将来の株価に対する配当率 | |
σ=株価変動性(ボラティリティ) | |
t=期間 | |
C=ストック・オプションの価値 | |
e=自然対数(≒2.7182) | |
S=株価 | |
K=権利行使価額 | |
N(d)=標準正規分布の累計確率密度関数 |
③二項モデル
将来の株価が、一定間隔の時点で一定の確率に基づいて変動すると仮定する、離散時間型モデルのひとつです。1期後に上昇した株価とその確率、下降した株価とその確率という2つのケースを想定して算出します。次の計算式を使って、求めることができます。
ストック・オプションの価値=(A×B+C×D)/(1+無リスク利子率) | |
---|---|
補足 | A=1期後の株価上昇値 |
B=1期後に株価が上昇する確率 | |
C=1期後の株価下降値(もし株価が権利行使価額を下回る場合は、権利を放棄すると想定されるため0となる) | |
D=1期後に株価が下降する確率 |
④モンテカルロ・シミュレーション
将来の株価の変動を一定の条件に基づいて複数回シミュレートし、そこで求められた値を利用して算出する方法です。以下の計算式で求めましょう。
ストック・オプションの価値=ペイオフ(利潤)の平均値/(1+無リスク利子率)n | |
---|---|
補足 | ペイオフ(利潤)は、シミュレーションで導出された最終期間の株価から権利行使価額を引いた値。ただし株価が権利行使価額を下回る場合は、0として計算する。 |
n=シミュレーションの回数。多いほど精度に関わるため、専用のシミュレーションソフトを用いて行われることもある |
2.3種類のストック・オプションの特徴
ストック・オプションの価値は、権利行使価額や権利行使期間など、事前の設計によって左右されます。価値算定では計算式を記憶するだけでなく、各ストック・オプションの特徴を抑えておくことも重要です。この章では、①通常型ストック・オプション、②株式報酬型ストック・オプション、③有償型ストック・オプションに分けてご紹介します。
①通常型ストック・オプション
一般的なストック・オプションです。権利行使価額は、権利付与時点での株価以上の金額に設計されるのが一般的となっています。
権利が付与された従業員等は、株価が上昇して権利行使価額が上回った場合はその差額分を受け取ることができ、臨時収入が得られます。仮に上回ることがないまま権利行使期間が来ても、その権利を放棄することが可能です。
なお税制適格要件を満たした、税制適格ストック・オプションもこちらに分類されます(詳細後述)。
②株式報酬型ストック・オプション
株式そのものを報酬としたストック・オプションです。権利行使価額は通常1円に設計されるため、株価の上昇・下降の影響がほとんどそのまま反映されます。権利行使期間は中長期が多いですが、ニーズに合わせて短期にすることもあります。
③有償型ストック・オプション
従業員等に対して時価で発行するストック・オプションを言います。時価は、権利付与時点での株価と同等か、少し低めにされるのが一般的です。設計次第で、従業員等へ節税効果を始め、さまざまなメリットをもたらすこともできます。
3.税制適格ストック・オプションとは
最後に、通常型ストック・オプションのひとつである税制適格ストック・オプションについて解説します。
①税制適格ストック・オプションとは
税制適格要件ストック・オプションとは、租税特別措置法が定める税制適格要件を満たしたストック・オプションのことです。
通常、ストック・オプションについては権利行使時点で課税が発生します。しかし税制適格要件を満たしていると、課税を権利行使によって取得した株式を売却するときまで繰り延べることができ、節税効果が得られます。
例えば、権利を行使して株式を取得し、さらに売却をして報酬を得たとしましょう。
このとき、税制適格ストック・オプションと、税制適格要件を満たしていない通常型ストック・オプション(税制非適格ストック・オプション)に発生する課税の違いは、次のようになります。
税制適格ストック・オプション | |
---|---|
課税が発生するタイミング | 株式売却時 |
課税対象となる金額 | 株式売却時の株価から、権利行使価格を引いた金額 |
課税の種類 | 株式譲渡益課税 |
税制非適格ストック・オプション | ||
---|---|---|
課税が発生するタイミング | 権利行使時 | 株式売却時 |
課税対象となる金額 | 権利行使時の株価から、権利行使価格を引いた金額 | 株式売却時の株価から、上記の金額を引いた金額 |
課税の種類 | 給与課税 | 株式譲渡益課税 |
ここで注目していただきたいのは、税制非適格ストック・オプションの権利行使時に発生する課税が、給与課税であることです。給与課税は累進課税のため、高額のストック・オプションであるほど税金が増えていきます。
加えて権利行使時点では、従業員等は権利行使価額分だけマイナスの状態です。このような金銭的に苦しいタイミングに多額の税金が要求される、というケースは珍しくありません。
一方、税制適格ストック・オプションであれば、売却時に株式譲渡益課税が発生するだけなので、この事態を避けることができます。そのため、通常型ストック・オプションでは多くの場合、税制適格ストック・オプションが採用されています。
②税制適格要件
税制適格要件には、主に次のようなものがあります。
要件内容 | 補足 |
---|---|
無償で発行されたものであること | 報酬債権との相殺で発行されるものも含む |
対象者が会社やその子会社の取締役や執行役などではないこと | 左記の使用人である個人や、それぞれの相続人も対象外 |
対象者が大口株主や、それの特別関係者でないこと | 大口株主は、上場企業の場合は発行済株式数の1/10超、未上場企業の場合は1/3超の株式を保有している株主を指す。その特別関係者は、親族や事実上婚姻関係のある者などをいう |
権利行使期間を、権利行使の付与が決議された2年後から10年までにすること | ー |
権利行使価額の年間合計額を1,200万円以下にすること | 例えば1年のうちに1回目400万円、2回目700万円、3回目600万円と権利を行使した際は、最後の600万円が非対象となり、課税が生じる(500万円ではない) |
その他、定められた要件を満たしていること | 権利行使価額が権利付与時の株価以上であること、譲渡禁止規定が付いていること |
まとめ
- ストック・オプション価値算定には、ブラック・ショールズ式、二項モデル、モンテカルロ・シミュレーションのいずれかを用いるのが一般的。
- ストック・オプションは、通常型ストック・オプション、株式報酬型ストック・オプション、有償型ストック・オプションの3種類に大別される。
- 税制適格ストック・オプションは、税制非適格ストック・オプションより節税効果が得られる。
おわりに
ストック・オプションの価値算定で用いる計算式を理解すれば、どの要素がどのように価値に影響を与えているのかが見えてきます。
ストック・オプションの設計にも役立つので、この記事をベースに、より詳細な知識を獲得していただければ幸いです。
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