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株式上場(IPO)において整備すべき経営管理制度

この記事でわかること

  • 証券取引所の審査基準およびガイドライン
  • 各基準・ガイドラインを満たすために必要となる社内制度の概要
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はじめに

これまで述べてきた通り、証券取引所による上場審査においては、株主数や時価総額といった、数値上の基準である形式基準と、明確な数値を儲けていない実質基準の2つの観点から審査が行われます。

実質基準の審査においては、上場企業にふさわしい経営管理の体制が整っているかどうかがポイントとなります。

本記事では、東京証券取引所の新規上場ガイドブックの実質審査基準の内容をもとに、下記5つの観点から、企業が整えるべき経営管理制度の全体像について解説していきます。

なお、本記事ではベンチャー企業・スタートアップの経営者を想定し、新興企業向け市場である東証マザーズの実質基準をベースとして解説をしていきます。

  1. 企業内容、リスク情報等の適切な開示
  2. 企業経営の健全性
  3. 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
  4. 事業計画の合理性
  5. その他、東京証券取引所が必要とする事項

参考:日本取引所グループ「2019 新規上場ガイドブック(マザーズ編)

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1.企業内容、リスク情報等の適切な開示

まず第一の基準が、企業内容およびリスク情報の開示がなされているかどうか、というものです。この項目は、具体的に下記4つのガイドラインで説明されています。

ガイドライン
経営に重大な影響を与える事実等の会社情報を管理し、当該会社情報を適時、適切に開示することができる状況にあること。また、内部者取引等の未然防止に向けた体制が適切に整備、運用されていること。
企業内容の開示に係る書類が法令等に準じて作成されており、かつ、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項、リスク要因として考慮されるべき事項、主要な事業活動の前提となる事項について分かりやすく記載されていること。
③関連当事者その他の特定の者との間の取引行為又は株式の所有割合の調整等により、企業グループの実態の開示を歪めていないこと。
④親会社等を有している場合、申請会社の経営に重要な影響を与える親会社等に関する事実等の会社情報を申請会社が適切に把握することができ、かつ、投資者に対して適時、適切に開示できる状況にあること。

①、②に関しては、主に適切な情報開示(ディスクロージャー)がきちんとなされているか、という部分となります。

主に下記のような法定書類を適切に記載し、継続して提出できる環境が整っているかどうかがチェックされます。

  • 有価証券報告書
  • 内部統制報告書
  • 四半期報告書
  • 招集通知
  • 臨時報告書
  • コーポレート・ガバナンス報告書
  • 決算短信
  • 決算取締役会決議通知書
  • 独立役員届出書
  • 適時開示資料

これらはいずれも、投資家が適正な投資判断を行うために必要なものです。これらが上場後も適正に、かつ期限に遅れることなく提出できる体制が求められます。

③④については、後述する企業経営の健全性にも関わる部分です。

上場申請企業が、自社の子会社・親会社や自社の役員と取引があるにも関わらず、それを隠すようなことがないようにしなければなりません。

詳しくは次の章で後述します。

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2.企業経営の健全性

企業経営の健全性とは、事業を公正かつ忠実に遂行しているかどうか、がチェックされます。

株式会社は原則として、出資者である株主の利益を保護しなければなりません。

そのため経営の実験を持つ取締役は、企業の利益を第一に優先し、職務上期待されている能力を十分に発揮する必要があります。

具体的なガイドラインは下記3つです。

ガイドライン
①特定の者に対し、取引行為その他の経営活動を通じて不当に利益を供与又は享受していないこと。
②親族関係、他の会社等の役職員等との兼職の状況が、役員としての公正、忠実かつ十分な職務の執行又は有効な監査の実施を損なう状況でないこと。
③親会社等を有している場合、申請会社の経営活動が親会社等からの独立性を有する状況にあること。

①②③いずれのガイドラインも、上場申請会社が、特定の人物や会社(関連当事者)との取引を通じた利益操作の防止をおもな趣旨としています。

会社は、株主の利益を第一に考えなければなりません。

そのため、会社の役員や監査役、子会社・親会社など、経営の意思決定に関わる個人や関係会社が、その立場を利用して会社と取引を行うことは、原則として認められないのです。

そのため上場審査までには、これらの取引は解消しておく必要があります。

こうした関連当事者や関係会社については、下記の記事でも詳しく解説しています。

より詳しく知りたい人へ:株式上場(IPO)に伴う関連当事者や関係会社の整理

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3.企業のコーポレート・ガバナンスや内部管理体制の有効性

コーポレート・ガバナンスとは、企業を統治するための仕組みのことで、東京証券取引所の資料では、以下のように定義されています。

定義
会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み

参考:日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード(2018年6月版)

一方で内部管理体制とは、企業が有効・かつ効率的に経営を行い、また法令を遵守するための仕組みのことを言います。

前者が主に会社外のステークホルダーとの関係性についての仕組みである点に対し、後者は会社内の仕組みに重点をおいているところが違いとなります。

具体的なガイドラインは下記5つです。

ガイドライン
役員の適正な職務の執行を確保するための体制が相応に整備され、適切に運用されている状況にあること。
②経営活動を有効に行うため、その内部管理体制が相応に整備され、適切に運用されている状況にあること。
③経営活動の安定かつ継続的な遂行、内部管理体制の維持のために必要な人員が確保されている状況にあること。
④実態に即した会計処理基準を採用し、かつ会計組織が適切に整備、運用されている状況にあること。
法令等を遵守するための有効な体制が適切に整備、運用され、また最近において重大な法令違反を犯しておらず、今後においても重大な法令違反となる恐れのある行為を行っていないこと。

①については、会社法に基づく機関設計が主に関係します。

より詳しく知りたい人へ:株式上場(IPO)のために必要な「機関設計」とは

②③④⑤については、主に内部統制が関係する分野となります。

より詳しく知りたい人へ:
株式上場(IPO)で必要となる内部統制
株式上場(IPO)前に対応したい与信管理

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4.事業計画の合理性

上場した株式の価値が将来的に向上し、株主に利益をもたらすに足るものであるかどうかをチェックされます。

東証一部・二部などでは、企業の存続性・収益性が求められますが、新興市場であるマザーズでは、事業計画の合理性という表現になっており、現時点での収益よりも将来の成長性に重点が置かれている形となります。

ガイドラインは主に下記2点となります。

ガイドライン
①事業計画が、そのビジネスモデル、事業環境、リスク要因等を踏まえて、適切に策定されていると認められること。
②事業計画を遂行するために必要な事業基盤が整備されていると認められること又は整備される合理的な見込みがあると認められること。

上記①②に関して関係するのは、中期経営計画予算管理です。

中期経営計画3〜5年間における長期目標、経営環境の分析、戦略計画、経営計画、数値計画を定めます。

目標達成のために策定するものなので、実現可能性のある内容でなければなりません。上場審査では、中期経営計画の策定が適切であるか、申請年度での達成状況が審査されます。

予算管理予算管理は、予算と実績の数値比較を行い、原因を分析、明確化することで予算達成に貢献します。中期経営計画の実現には、予算管理が必要です。また、予算は中期経営計画を構成する重要な要素です。予算の設定は、中期経営計画との整合性を取る必要があります。

より詳しく知りたい人へ:株式上場(IPO)で必要となる予算管理

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5.その他、東京証券取引所が必要とする事項

上記以外に、東京証券取引所が個別に必要とする基準を満たさなければなりません。

具体的には、下記のガイドラインが定められています。

ガイドライン
①株主等の権利内容及びその行使の状況が、公益又は投資者保護の観点で適当と認められること。
②経営活動や業績に重大な影響を与える係争又は紛争を抱えていないこと。
③主要な事業活動の前提となる事項について、その継続に支障を来す要因が発生していないこと。
④反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること。
⑤新規上場申請に係る内国株券等が、無議決権株式(当該内国株券等以外に新規上場申請を行う銘柄がない場合に限る。)又は議決権の少ない株式である場合は、ガイドラインⅢ.6.(5)に掲げる事項のいずれにも適合すること。
⑥新規上場申請に係る内国株券等が、無議決権株式である場合(当該内国株券等以外に新規上場申請を行う銘柄がある場合に限る。)は、ガイドラインⅢ.6.(6)に掲げる事項のいずれにも適合すること。
⑦その他公益又は投資者保護の観点から適当と認められること。

①に関しては、主に買収防衛策として新株予約権(一定の価格で新規に発行した株式を購入できる権利)等を設定している場合に、その内容が既存の株主の利益を害さないかどうかをチェックされます。

②③については、業績に大きな影響を及ぼすような訴訟問題(自社製品のリコールなど)がないかどうか、および、事業に必要な許認可が取り消される、あるいは更新できないといったことがないかどうかがチェックの対象となります。

④については、反社会勢力との繋がりの有無および、その防止体制について確認が行われます。政府が発表する「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に基づいた体制づくりが行われているかどうかがチェックの対象となります。

⑤⑥については、いわゆる議決権種類株式と呼ばれる特殊な株式の取扱いが適切かどうかを確認するものです。

通常、株式は1株あたりにつき1つの議決権を持ちますが、議決権種類株式は、1株あたりの議決権が通常よりも多い、あるいは少なかったり、または制限されているもののことをいいます。

議決権は、会社経営への影響力に直結しますので、例えば特定の人物が持つ株式に大量の議決権を付与するなどした場合、一般株主よりも出資額が少ないにも関わらず、経営に対して大きな影響を持つことになります。

このようなケースは、株主の利益を保護しているとは言いづらくなるため、一定のルールに基づいた設計が行われているかどうかがチェックの対象となります。

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まとめ

上場審査では、企業の継続性や安定した収益性、企業経営における健全性などの視点から、会社が利益を生み出し、株主にその利益を還元できる体制を整えているかが確認されます。

注意すべき項目が多いため、漏れ抜けがないよう準備をしていきましょう。

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