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取締役会が設置された株式会社の社長さんから、次のようなご相談を頂きました。

「1月1日に代表取締役を1名追加したい。しかし、1月1日に役員を集めることもできない。どうしたらよいだろうか?」

 代表取締役を選ぶためには、取締役会の決議が必要です。でも、1月1日に役員を集めて取締役会を開催するのは現実的には難しい、さて、どうすべきか?というご質問なんです。

 想定されるケースごとに、それぞれの対応策を考えてみましょう。

  【現在取締役である者を1月1日から代表取締役に選ぶ場合】

 ご質問を頂きました会社の役員さんが、以下のような場合だったとします。     

     取締役A   取締役B   取締役C   代表取締役A   監査役D

 そして、取締役Bを1月1日から代表取締役にして、代表取締役をAとBの2名にしたい、というケースだったとします。

 この場合は、1月1日に取締役会を開かずに、その前、例えば12月中に取締役会を開いて「1月1日からBを代表取締役に選ぶ」という決議を行うことができます。このような決議を「予選決議」といいます。(「予選決議」とは、選任の効力が発生する日より前に、予め選任決議をしてしまうことです。)つまり、12月中などの取締役会で、今現在取締役であるBを「1月1日」から代表取締役にする、という決議を行うことができるのです。

ポイント:「今現在取締役である者」であれば、代表取締役に「予選」することができる。

【現在取締役ではない者を、1月1日から代表取締役に選定する場合】

 では、次のようなケースの場合には、どうなるでしょうか?

  取締役A  取締役B  取締役C  代表取締役A  監査役D

  ↑ 新たに E を、代表取締役として選びたい。 

 今現在、取締役ではないEを、1月1日から代表取締役に追加で選びたい、というケースです。この場合にも、前の例のように、Eを代表取締役として予選することはできるのでしょうか?  

 結論から先にいいますと、このケースにおいては、Eを代表取締役として予選することはできません。

 順を追ってご説明しますね。

 現在「取締役でもないE」を代表取締役として選ぶためには、まず、Eを「取締役」に選任しなければなりません。取締役を選任する決議は、株主総会で行います。まず、株主総会において「Eを1月1日から取締役に選任する」という決議を行います。なお、この決議は予選が出来ます。つまり、12月中に株主総会を開き、効力が発生する「1月1日」より前に、予めEを「取締役」に選んでおくことが可能です。

 ところが、そのEを更に12月中の取締役会で「1月1日より代表取締役として選定する」という決議はできません。なぜかというと、Eが「取締役」になるのは1月1日からであり、12月現在においては、Eは「取締役」ではないからです。「取締役でない者を代表取締役として選ぶ」ということは、認められないのです。

ポイント:「今現在取締役でない者」を、代表取締役に「予選」することはできない。

 代表取締役は取締役会において、「取締役」の中から選ばれます。その決議をする取締役会では、決議時に取締役でない者を代表取締役に選ぶことはできません。

 では、どうしたらよいのでしょうか?対応策は、2つ考えられます。

 【12月中にEの「取締役」選任の効力を発生させてしまう】

 対応策の一つ目は、Eの「取締役」としての選任の効力を、1月1日よりも前、12月中に発生させてしまう、というやり方です。

 例えば株主総会を12月26日に開催し、「本日、Eを取締役として選任する」と決議します。そうしますと、Eは12月26日に取締役となります。そして、その日の株主総会終了後に取締役会を開き、「1月1日からEを代表取締役に選定する」という決議を行います。12月26日現在、取締役会が開かれている時点で「すでに取締役であるE」を、1月1日から代表取締役として予選することは、問題なく可能なのです。(これは、前述のBの予選決議と同じですね。)

 ただし、このやり方によると、Eが取締役になる時期(12月26日)と、代表取締役になる時期(1月1日)とがずれてしまう、という問題が発生してしまいますね。役員報酬などで問題が生じる場合もあり得ますので、この方法で本当に大丈夫なのか、しっかりとご確認ください。

【1月1日の取締役会を書面決議で行う】

 Eが「取締役」になる時期は「代表取締役」と同様に「1月1日」でないとまずい、という場合には、やはり「1月1日」の取締役会で、Eを代表取締役に選ぶしかありません。

 しかし、1月1日に役員を集めることはできません。どうしましょうか?

 この場合、会社法370条の「取締役会の決議の省略」(いわゆる「書面決議」)という規定が有効なんです。取締役全員が「議案内容及び書面決議によること」について「書面」又は「電磁的記録(Eメール等)」で同意し、監査役が異議を述べなかった場合は、取締役会の決議があったものとみなされる、という規定です。

 この規定を使えば、1月1日に役員を集めることなく、取締役会決議が成立したことになります。

 但し、この会社法370条の書面決議を用いるには、例えば以下のような「定款」の規定が必要になります。

定款第●条(取締役会の書面決議)取締役の全員が取締役会の決議事項について書面または電磁的記録によって同意したときは、当該決議事項を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす。

 もしもこのような規定が「定款」に定められていない場合には、株主総会で定款変更決議を行い、定款内容に上記条項を追加して頂ければ大丈夫です。

◎ポイント:「定款の規定」+「議案内容及び書面決議によること」に「全取締役が書面またはメール等で同意」+「監査役が異議を述べない」=取締役会の決議があったとされる

 では、具体的な案を見ながら、「取締役会書面決議」の方法を説明いたします。

《具体的なスケジュール案》

◎12月26日 株主総会を開催=Eを1月1日から取締役に選任する決議(+議案 「取締役会書面決議」を追加する定款変更決議)

◎1月1日 代表取締役Aが、取締役B・C・Eと監査役Dに対し①Eを本日代表取締役にしたいこと②この決議は書面決議によること③これらの同意を求めることを、Eメールする。

◎1月1日 取締役B・C・Eが、代表取締役Aに対し①Eを本日代表取締役にすること②この決議は書面決議によること③これらを同意することをEメールする。

◎1月1日 監査役Dが、代表取締役Aに対し①Eを本日代表取締役にすること②この決議は書面決議によること③これらに異議を述べないことをEメールする。

 例えば12月26日に株主総会を開き、「Eを1月1日から取締役にする」という決議を行います。(もしも定款に「取締役会書面決議」の規定がない場合は、1号議案で「定款変更決議」を行い、2号議案で「Eの選任決議」を行ってください。)    

 そして年明けの1月1日、代表取締役Aから取締役B・C・E及び監査役Dに対し、「本日、1月1日からEを代表取締役にしたいこと、及び、その決議は会社法370条の書面決議で行いたいことの同意を求めること」をEメールで送信します。

 その送信を受けた取締役B・C・Eは「本日、1月1日よりEを代表取締役にすること、及び、その決議は会社法370条の書面決議により行うことを同意する」ことをEメールで返信します。

 また監査役Dは「本日、1月1日よりEを代表取締役にすること、及び、その決議は会社法370条の書面決議により行うことに、異議を述べない」ことをEメールで返信します。

 こうすることで、1月1日に役員を集めることなく、Eを1月1日から代表取締役にすることができるのです。

 なお、12月26日の「株主総会」についても、これを「書面決議」とすることができます。取締役が株主に対して「総会決議の目的事項」を提案し、全株主が書面又は電磁的記録(メール等)によりこれを同意すれば、その提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされ、実際に開催する必要がなくなるのです(会社法319条)。

◎ポイント:「総会決議の目的事項」に「総株主が書面又はメール等で同意」=株主総会の決議があったとされる

【まとめ】

①今現在の取締役である者を、「1月1日」以前の取締役会で、代表取締役に予選することができる。

②今現在取締役でない者を、「1月1日」以前の取締役会で、代表取締役に予選することはできない。

③今現在取締役でない者を12月中に取締役に選任し、すぐに選任の効力を発生させてしまえば、その者が取締役となった日以降の取締役会で、「1月1日」から代表取締役に予選することができる(①と同様)。

④今現在取締役でない者を1月1日から取締役にする場合は、その者を代表取締役とするための取締役会決議は「1月1日」に行わなければならない。ただし、定款に規定があれば、「書面決議」による取締役会が可能。Eメール等のやり取りで対応できる。

 年末年始のお忙しい時期等に「取締役会書面決議」を使えば、コンプライアンスを満たしつつも、楽な対応ができると思います。是非、使ってみて下さい。    

 以上、「1月1日に代表取締役を選ぶ方法」につき、ご説明させて頂きました。ご参考いただければ幸いです。

 司法書士 山下晋広(やましたくにひろ)

ここに知識を出品

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この記事を書いた人

山下 晋広

司法書士

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2004年に司法書士事務所を開設し、現在まで個人事務所を運営しております。
企業の顧問を数社受け持っているため、企業法務を得意としています。
また、司法書士会における調停センターの運営委員を担当している経験から、相続関係等の手続も得意分野です。
その他、不動産登記手続きや成年後見業務を行っております。

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