従業員がり患した精神疾患の責任を会社はどこまで負うべきか(第2回)
- もっと解説してほしい0
1320
0
0
0
0.はじめに
第1回では、業務と疾病との間に相当因果関係がある場合に会社がその責任を負うこと、そしてこの相当因果関係は、業務起因性が認められる場合(=具体的な業務上の心理的負荷の度合いが強い場合)に相当因果関係ありと判断される、という基本的な考え方をみてきました。
ただし、既往歴のある者が再発し病状が悪化するような場合、それが業務上の心理的負荷により発病したか否か、本人と会社の責任分担がグレーゾーンに踏み入ってしまうケースが多く存在します。
既往歴がある場合には、本人も自身の病状の特性を承知しているので、業務上の心理的負荷が急増するより以前に通院を再開し継続しているケースが多く、業務起因性の判断が複雑になるためです。
厚生労働省の報告によれば、うつ病の再発率は60%程度といわれており、既往歴の存在を無視することはできないと言ってよいでしょう。そこで今回は、近時の判例から実務のポイントを押さえてみたいと思います。
1.川越労基署長(アイダ設計)事件(東京地判 令和元.7.4)
まずは事件の紹介です。
本件は、A社で勤務していたXが、勤務中の事故により骨盤骨折の傷病を負ったこと等により、強い精神的負荷を受けて反復性うつ病性障害を発病したなどとして、労災保険の休業補償給付を支給するよう、業務起因性を認めず不支給処分としていた行政Bを訴えたものです。
Xには事故前から精神疾患の既往歴があった為、精神障害の発病時期が争点となりました。
2.再発・悪化に関する業務起因性の有無
Xは、骨折の入院治療後に精神障害が再発・悪化し、平成23年11月以降にCクリニックで「反復性うつ病性障害」「神経衰弱」と診断された、と主張します。
しかし、実際にはこれより以前に、別のDクリニックなどで「うつ状態」や「社会恐怖」などと診断を受け、月1回のペースで通院し抗うつ薬を服用していたという事実がありました。
東京地裁は、次のような事実から、Xが主張する時期において精神障害が悪化したと認めることはできず、業務起因性は無いとしてXの請求を退けました。
(1)Xの主治医であるCクリニックの医師が、最終的な意見において発病時期を特定することは困難と述べていること
(2)入院中にXの精神状態が悪化したことを示す記載は見当たらず、却ってXの精神状態が安定している旨の記載があること
3.終わりに
既往歴がある場合、業務上の心理的負荷の強度が高まるような出来事の発生と本人の通院状況や症状の経過が時期的に符合し、相関関係にあるかがポイントになります。
では、時期的に符合せず、相関関係にあると必ずしも言えない場合には、会社は責任を負わないのでしょうか?
次回は、会社の責任はどの範囲まで及ぶのかについて考えていきたいと思います。
この記事の評価をお願いします
0
この記事を書いた人
このユーザーの他の投稿
関連のあるコラム
投稿を削除します。本当によろしいですか?
関連する質問がAIで生成されています。
従業員が既往歴を持っている場合、その健康管理に関して会社としてどの程度の対応が求められるのでしょうか?具体的な法的責任の範囲について教えてください。
社員が入社時に既往歴を申告していなかった場合、その後に既往歴が原因で病状が悪化した場合でも会社は責任を負うのでしょうか?また、そうした事態に備えた対策はあるのでしょうか?
従業員の精神的健康状態が悪化した際に、会社が取るべき具体的な対応策について教えてください。また、その対応が適切と認められる基準はどのように判断されるのでしょうか?
過去の判例を踏まえて、どのような状況や証拠が特に業務起因性を立証する際に重要視されるのでしょうか?具体的な事例を挙げて解説していただけますか?
精神疾患の既往歴を持つ社員が定期的に通院している場合、その情報を会社が把握・管理するための適切な方法とは?また、それに対する社員のプライバシーの保護はどのように担保すべきでしょうか?
精神的負荷が業務によるものか否かを判断するための基準やガイドラインは存在するのでしょうか?その具体的な内容と、それを用いてどのように判断するかを教えてください。
心理的負荷の強度が高まる業務が発生する前に、会社側としてどういった対応を取るのが適切でしょうか?事前のリスク管理や対応策について具体的なアドバイスをお願いします。
業務起因性が不明確な精神疾患の再発について、会社がリスクを回避するために行うべき具体的な事前措置や、従業員とのコミュニケーション方法について教えてください。
法的には業務起因性が認められない場合でも、道義的責任や企業の社会的責任として会社が従業員に対してサポートを行う必要性について、どのように考えればよいでしょうか?
既往歴がある従業員の健康管理に特化した専門的な相談窓口やサポート機関について教えてください。また、それらをどのように活用するのが効果的かについてもご教示ください。
閉じる
ダウンロード
20万円以上の契約書を無料でご利用できます。
KnowHowsは、専門家と相談者をつなぐ
オンラインプラットフォームです。
ダウンロード
多くの事業に重要な知識が
ダウンロードできます。
KnowHowsは、専門家と相談者をつなぐ
オンラインプラットフォームです。
あなたの知識を
欲しい人がいます。
関わる経験や知識が必要な人たちが待ってます。
KnowHowsは、専門家と相談者をつなぐ
オンラインプラットフォームです。
投稿できます。
多くのプロとつながりましょう。
KnowHowsは、専門家と相談者をつなぐ
オンラインプラットフォームです。
相談できます。
事業、M&A、財務、法務に関わる
専門知識をもったプロがお答えします。
KnowHowsは、専門家と相談者をつなぐ
オンラインプラットフォームです。
プロフィール画像を登録してください
有料のプラン登録をしませんか?
電話番号認証のお願い
アップグレード
アクセス権限
3IP同時ログインが可能株価算定概要書のDL
資本政策利用無制限
機能が全て利用可能
株価算定も追加費用なしで利用し放題公式の知識を買う/売るの無制限
ノウハウズ公式のアカウントによる投稿のみ対象契約書ダウンロードの無制限