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0.はじめに

第1回では、業務と疾病との間に相当因果関係がある場合に会社がその責任を負うこと、そしてこの相当因果関係は、業務起因性が認められる場合(=具体的な業務上の心理的負荷の度合いが強い場合)に相当因果関係ありと判断される、という基本的な考え方をみてきました。

ただし、既往歴のある者が再発し病状が悪化するような場合、それが業務上の心理的負荷により発病したか否か、本人と会社の責任分担がグレーゾーンに踏み入ってしまうケースが多く存在します。
既往歴がある場合には、本人も自身の病状の特性を承知しているので、業務上の心理的負荷が急増するより以前に通院を再開し継続しているケースが多く、業務起因性の判断が複雑になるためです。

厚生労働省の報告によれば、うつ病の再発率は60%程度といわれており、既往歴の存在を無視することはできないと言ってよいでしょう。そこで今回は、近時の判例から実務のポイントを押さえてみたいと思います。

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1.川越労基署長(アイダ設計)事件(東京地判 令和元.7.4)

まずは事件の紹介です。
本件は、A社で勤務していたXが、勤務中の事故により骨盤骨折の傷病を負ったこと等により、強い精神的負荷を受けて反復性うつ病性障害を発病したなどとして、労災保険の休業補償給付を支給するよう、業務起因性を認めず不支給処分としていた行政Bを訴えたものです。

Xには事故前から精神疾患の既往歴があった為、精神障害の発病時期が争点となりました。

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2.再発・悪化に関する業務起因性の有無

Xは、骨折の入院治療後に精神障害が再発・悪化し、平成23年11月以降にCクリニックで「反復性うつ病性障害」「神経衰弱」と診断された、と主張します。

しかし、実際にはこれより以前に、別のDクリニックなどで「うつ状態」や「社会恐怖」などと診断を受け、月1回のペースで通院し抗うつ薬を服用していたという事実がありました。

東京地裁は、次のような事実から、Xが主張する時期において精神障害が悪化したと認めることはできず、業務起因性は無いとしてXの請求を退けました。

(1)Xの主治医であるCクリニックの医師が、最終的な意見において発病時期を特定することは困難と述べていること
(2)入院中にXの精神状態が悪化したことを示す記載は見当たらず、却ってXの精神状態が安定している旨の記載があること

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3.終わりに

既往歴がある場合、業務上の心理的負荷の強度が高まるような出来事の発生と本人の通院状況や症状の経過が時期的に符合し、相関関係にあるかがポイントになります。
では、時期的に符合せず、相関関係にあると必ずしも言えない場合には、会社は責任を負わないのでしょうか?

次回は、会社の責任はどの範囲まで及ぶのかについて考えていきたいと思います。

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この記事を書いた人

今坂 啓

上場企業社員(経営・財務戦略系以外)

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社会保険労務士有資格者として、人事労務の第一線にて実務を担っております。

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