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従業員がり患した精神疾患の責任を会社はどこまで負うべきか(第3回)

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0.はじめに

第2回では、精神疾患における業務起因性の判断の実務的なポイントが、業務上の心理的負荷の強度が高まるような出来事の発生と本人の通院状況や症状の経過の時期的符合・相関関係にあることを解説しました。
最終回ではこれらを踏まえ、会社が従業員に対して負う「安全配慮義務」を中心に、精神疾患と会社の責任との関係性をみていきます。

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1.安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、会社が当然に負う、労働契約に付随する義務です。
会社の管理下における人的・物的環境から通常生じる危険を防止する義務であり、業務に起因する精神疾患について会社が責任を負うことの根拠でもあります。

しかし、責任の範囲はそれだけにとどまりません。従業員本人の通院状況や症状の経過が時期的に符合しない場合でも、業務上の心理的負荷の強度が高まるような出来事が発生していれば、それ自体に対して従業員の健康面への配慮が必要と考えられるからです。

具体的な裁判例を見てみましょう。

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2.東芝事件(東京高判 平28.8.31, 労働判例1147号 ほか)

本件では、従業員のうつ病り患と会社の安全配慮義務が争点となりました。

当初、東京高裁判決では、長時間労働でうつ病にり患していた元従業員が早めに通院状況などを申告していれば、会社は症状悪化を防ぐ措置を講じることができたとして、過失相殺(=会社の責任軽減)を認定しました。

しかし最高裁は、過重労働などのストレス状況下で体調悪化が見て取れる場合は、本人からの申告がなくとも会社は健康に配慮する必要がある、として過失相殺認定を否定しました。

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3.従業員のプライバシーとのせめぎ合い

以上のように、過重労働や業務トラブルなどで相当な負荷がかかっている状況下では、会社側は従業員に対して広く責任を負い、症状悪化を防ぐ措置を講じる必要があります。

しかし、メンタルヘルスに関する情報はプライバシーに関するものですので、本人から情報開示されないと不十分な対応に終始してしまうことになります。

よくあるケースで具体的にみてみましょう。

(1) 従業員Aがクレーム処理の集中により体調悪化が見て取れるようになる。
   ストレスチェックも高ストレス判定という結果が出ていたが、本人は人事評価を気にして産業医面談を受け
      ず、会社にも申告しなかった。

(2) Aの上司Bが本人の体調悪化を心配し繰り返し面談をするが、本人が頑なに体調不良を認めない状況が続き、
      次第に上司Bとの関係も悪化。その直後、休職状態に陥る。

(3) Bは、部署で対応できる限界を超えたと判断し人事部に対応を求めるも、既にAとは音信不通のような状態に
      なっており、満足な状況把握もできないまま休職満了による自動退職を迎えてしまう。

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4.問題分析からみえること

一般的に、従業員の精神疾患の問題を拡大させない為のポイントとして次のような要素が挙げられます。

 ・話しやすい職場環境づくり
 ・ラインによるケア(ライン管理職者の教育)
 ・社内保健の仕組み周知(メンタルヘルス対応の流れ、産業医面談の周知)
 ・ストレスチェックの活用(カウンセラーによる匿名相談サービスの利用周知)

では、ケース(1)~(3)を上記の要素に照らすと、どのような問題がみえてくるでしょうか?

Aにとって話しやすい環境だったのか?Bにメンタルヘルスに関する知識はあったのか?人事部が介入するタイミングが遅かったが、社内的にメンタル不調に対応する仕組みがなかったのか?…様々な問題が想像できるはずです。

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5.おわりに

実際に従業員が精神疾患に陥った場合、職場環境だけでなく、本人の性格・気質や生活上の問題など複数の要素が絡み合って複雑化していることが多く、個別対応ということでは会社はその責任を負いきれません。

そこで、ご紹介したケースと対応ポイントを照らして問題点を議論し、その上で「自社の状況はどうか?」に落とし込んでみましょう。

問題点を客観化していき、自社に相応しい全体最適を求められる方法を模索することが、会社の何よりの責任の果たし方であるよう思います。

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この記事を書いた人

今坂 啓

上場企業社員(経営・財務戦略系以外)

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社会保険労務士有資格者として、人事労務の第一線にて実務を担っております。

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