精神疾患による休職とどのように向き合うのか(第1回)
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0.はじめに
労働者の精神疾患による休職が、使用者にとって大きな課題となっています。これは、精神疾患は外見上から判断しにくいという特徴があることに起因します。
一般的に、主治医の診察も患者本人の自己申告に基づく診断とならざるを得ないという限界があり、使用者としては、復職を希望する労働者から提出された診断書等のみならず、独自に必要な情報を適切な方法で収集し、それらを評価することが必要となっているためです。
そこで今回は、使用者が精神疾患による休職とどのように向き合っていけばよいかを考えていきたいと思います。まずは、休職という就業上のルールがどのようなものかを詳細に検討してみましょう。
1.休職の法的意義
休職とは、労働者の事情による就業不能について、使用者が一定期間、労働契約上の就労義務を免除する措置をいいます。
そもそも労働契約は、労働者が契約の本旨に従った労働を提供し、使用者がこれに対して賃金を支払うものです。もし労働者が正常な勤務が出来ない状態(労働者側の債務不履行)となれば、契約解除(労働契約上は解雇)を使用者が選択しうる、ということになります。
そこで、一定の猶予期間をおいて回復を待つために労働契約を維持しながら労働の提供を免除する、労働者を保護するものとして、休職制度が機能するのです。
一般的には、就業規則に「傷病休職」といった条項を設け、休職期間満了時に休職事由が消滅せず復職が出来ないときは自然退職として取扱います。
就業規則にその旨を定め、かつその通りに実施した上で退職となった場合には、定年と同じように「労働契約の終期の到来による自然的な終了」となり解雇の問題は生じないとされています(昭27.7.25基収1628号通達)。
2.どの程度まで回復すれば復職可能といえるか
休職の取扱いにおいて問題となるのは、労働者の回復状況です。
原則として、通常の業務に耐えうる状況まで回復していなければ、使用者に復職させる義務は生じません。
例えば、日常生活に不便がないレベルまで回復していたとしても、通常の業務との関係で、勤務に耐えうるとまで評価することは出来ないでしょう。
使用者としては、復職に際し十分な判断材料が必要となるので、休職者に対し治癒を証明する適正な診断書の提出を求めることができ、休職者がこれに応じないときに復職を拒否することは、合理的な理由があるものとして認められます。
3.労働契約の本旨に従った履行がポイント
復職に関し適正な診断書が提出された場合、事業場での具体的な仕事との関係で通常の勤務が可能な程度に回復しているか否かが判断のポイントになります。
労働者の職種や業務内容が特定されている雇用形態であれば、その特定された職種や業務内容に通常求められる業務に耐えうるか否かで判断されます。
一方、職場内で業務ローテーションが定期的に行われるような、職種や業務内容が特定されていないか緩やかに設定されている雇用形態では、職種や業務内容を広い範囲で捉えた上で、労働契約の本旨に従った履行が可能か否かで判断されます(「片山組事件」最判 平10.4.9.)。
4.業務起因性の判断との関連
注意を払わなければならないのは、休職事由となっている傷病が業務に起因するものである否かです。
休職満了までに治癒しなかったとしても、当該傷病が業務に起因して発症したものと認められる場合には、業務上災害による休業期間中の解雇を禁止する労基法19条1項の趣旨から、就業規則に休職期間満了による自然退職が定められていても、これに基づく退職は無効と解されます。
特に、近年、急速に増加し大きな問題となっているメンタルヘルス不調に対しては慎重な判断を要します。メンタルヘルス不調に関しては、「心理的負荷による精神障害の認定基準(2011年12月26日付 基発1226 第1号)」における考え方を参考すると良いでしょう。
5.おわりに
以上が、休職に関する基本的な考え方です。これらは精神疾患における休職に関しても異なるところはありません。
次回は、精神疾患の休職に関し、その有効性が認識されてきている「リワークプログラム」を中心に、精神疾患からの円滑な復職を目指す実務的な施策についてみていきます。
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