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この記事でわかること

  • リアルオプションの特徴やメリット、活用事例
  • リアルオプションの手順
  • リアルオプションの課題点
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はじめに

リアルオプションとは、事業やプロジェクトの将来性を将来の不確実性を考慮し、またいくつかのとりうる選択肢を加味したうえで事業価値を定量的に導き出す手法です。

事業やプロジェクトのスタートやM&Aなどのケースにおいて、当該事業の将来性の判断を要求されることがあるかと思います。

事業の将来性を判断するにあたっては、定量的指標が必要になってくることが多く、その評価手法として、NPV法が採用されることが多かったかと思います。NPV法とは、投資が生み出す将来キャッシュ・フローを事業リスクを考慮した割引率で現在価値に割引き、ここから投資コスト(投資資金)を差引算定する方法です。

NPV法による事業評価手法は、一定の事実(例えば、10億円の投資を実行し、これを一定の方法で販売し続ける)に基づき算定することが前提となっています。

しかし、昨今の経済環境は、急速なグローバル化やIT技術の進歩に伴い、市場規模の変化が想定よりも早まるケースや、商品・サービスの陳腐化がスピードアップするケースが多分に考えられ、一定の事実を前提とした事業運営は考えにくい状況にあります。

このような、事業運営における不確実性を加味し、事業投資の可否判断に資する定量的な事業価値算定を可能にしたのがリアルオプションになります。

本記事は、上場企業や中小企業の投資意思決定に多く触れてきた公認会計士が執筆をしています。リアルオプションの手法を駆使した、投資意思決定の「抑えどころ」を簡単にご紹介いたします。

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1.リアルオプションとは

リアル・オプションとは?特徴やメリット、活用事例、算定方法を解説

リアルオプションとは、未来の不確実性を加味した事業投資の可否判断を定量的に行う評価手法のひとつです。

リアルオプションの手法を理解することで、今までの投資意思決定のプロセスが定量化され、より可視化されます。また、投資の継続・中止、途中の投資内容の変更や、投資時期の延期などの不確実性を考慮できるようになります。

ここでは、リアルオプションの特徴やメリット、主な種類について紹介します。

①特徴

リアルオプションの大きな特徴は、事業投資における未来の不確実性を複数考慮して算定される点にあります。

リアルオプションとNPV(正味現在価値)法がよく対比されますが、いずれも将来キャッシュフローを予測し、投資回収の可能性を定量的に評価するという点では同じです。。

一方、NPV法による投資意思決定の場合、一定の諸条件が「変更しない」という前提の下、「投資をするべきか」「投資をやめるべきか」の判断されていました。その点が、NPV法との違いであり、リアルオプションの特徴です。

これはあくまでもイメージではありますが、NPV法がシンプルな投資回収判定に対し、それを複雑化したのがリアルオプション、というイメージになるかと思います。

②メリット

リアルオプションを採用し、投資意思決定をするメリットは、いくつかのオプションを経営サイドが一定のタイミングで判断することを想定した投資回収を算定できる点にあります。ここで、オプションとは、「権利」と表現されることが多いのですが、イメージは「パターン」と認識するとイメージがしやすいかと思います。

例えば、不動産会社がある土地を100億円で購入するとします。これに対する投資回収の可能性を算定する場合、いくつかのパターン、すなわちオプションが想定されるかと思います。

一つはすぐに土地を切り売りして売却するパターン。また建屋を立てて販売するパターン。もしくは商業施設を展開し、リテール施設を建設するパターン。さらには、一旦土地を寝かせて値上がりを待つパターン。

リアルオプションでは、パターンの選択可能性を考慮して数値化をするため、投資機会を多面的に評価でき、NPV法では「投資に値せず」との判断が下されるケースでも「投資すべき」との結論を導くことができます。

その結果、投資機会を失う機会を軽減でき、企業が成長する可能性を広げることができるメリットがあります。

③主な種類

リアルオプションには、主に8つ種類があります。オプションを権利もしくはパターンと捉えると、納得感がつかめるかと思います。

種  類内  容例  示
延期オプション意思決定を先延ばしにする、先延ばしにできる権利天然ガスや石油などの天然資源の開発・不動産開発など参入障壁の高い事業
段階的オプション市場の拡大に合わせた段階的投資を実行し、事業を拡大できる権利医薬品などの研究開発・通信といった資本集約型事業など
拡張オプション市場の成長スピードに合わせて追加投資をおこない、事業を拡大できる権利不動産開発・リテールの出店計画など
縮小オプション事業環境の悪化に伴う事業規模の縮小ができる権利初期投資が低い事業・リテールの閉店計画など
中断・再開オプション事業を一時中断 or 再開できる権利天然資源の開発・価格変動の激しい事業
廃棄オプション事業環境の悪化に伴い、事業の撤退ができる権利悪化に伴い固定費が補えない事業など
切替オプション環境変化に伴い、投入材料や販売サービス・商品が変更できる権利石油精製業者のガソリンから灯油への精算切替
成長オプション商品・サービスの市場ニーズが高まり、追加投資により、事業を成長させられる権利新工場の建設など

このように、投資にはいくつかのオプションが存在し、これらをいつ・どのタイミングで・どれを選択するのかは、企業サイドが選択できる権利を有しているとリアルオプションでは考えられています。

④主な活用事例

ここでは、リアルオプションの活用に適した事例をご紹介します。

・SaaS企業の開発/販売計画に関する事例

1つは、SaaS(Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア))を開発し、ライセンス料を月額徴収しているような企業です。

SaaS企業の場合、サービスのローンチにいたるまでのプロセスとして、商品設計、そして開発からの販売というながれが一般的で、商品設計が当然ながら重要なフェーズになってきます。

昨今のSaaSのビジネスモデルにおける環境は、熾烈を極めています。新たなサービスが毎年膨大に増えており、当初想定していなかった競合他社が突如として現れることもありますし、GAFAなどの大手が突如サービススタートというケースも考えられます。

また、サービス開発にあたるエンジニアの人材確保も困難を極め、想定する人件費の高騰や採用コストの増加も見込まれる状況にあります。

このような環境下で、あるサービスを開発し、市場リリースをすることが投資回収において妥当な判断か、という意思決定は以前にも増して困難を極めているといえます。そのため、リアルオプションの手法が有用に機能すると考えられます。

たとえば2つの商品開発をしようとしていて、「2つ同時に開発をスタートさせるべきなのか」、もしくは「1つの商品に集中して開発を進め、リリース完了し、一定の収益が確保できたタイミングで2つ目の開発にシフトするのか」選択肢があった際に、リアルオプションを用いれば、より妥当な判断が下せるようになります。

・研究開発の継続可否に関する事例

研究開発は、基本的にはコストセンターになることが多く、また不確実性が高いため、DCF法による投資意思決定を検討した場合、開発中止という結論になってしまうことが多くなります。

しかし、一定の研究開発を行わなければ、将来の新商品の開発には繋がりません。そのため、研究開発は現時点での超過収益力の範囲内でコストを投じることになります。

一方で、ある一定の研究開発の成果が新たな市場開拓につながる可能性を秘めており、その可能性がある場合、現時点の超過収益力を超えた投資をすることが、将来の企業価値の拡大につながると判断されるケースも想定されます。

例えば、人間に効果が期待できる成分を分析していった結果、犬や猫といったペットの健康改善にも期待できる商品が開発される可能性があると考えられる場合、想定する販売規模や時期が複数パターンで想定される可能性があることになります。

このとき、では具体的にどのくらいの可能性を秘めているのか、明確な数値として算出する手法として、リアルオプションが用いられることがしばしばあります。

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2.リアルオプションを用いた事業価値(EV)計算方法

リアルオプションには、事業価値の評価方法には、一般的に解析型解法、二項格子モデル、シミュレーション法の3つがあげられます。

それぞれに長所と短所が存在するのですが、ここではもっとも取り掛かりやすい二項格子モデルによる事業価値の計算方法をご紹介いたします。

①手順1.デシジョンツリーによるパターン分析

デシジョンツリーとは、事業投資における情報を整理し、パターンに応じて場合分けをツリー上に行い、投資パターンを可視化する手法です。SaaSにおけるシステム開発をイメージすると、以下のような図解になります。

②手順2.デシジョンツリーごとの想定される収入を算定する

上記のデシジョンツリーにおける不確実性(可能性)をパーセントで定量化し、それぞれの想定売上高を算定します。その結果は次のイメージになります。

このとき、パターンごとに想定される売上高を算定すると次のようになります。

パターン確率売上高想定売上高(確率×売上高)
パターン130%150億円45億円
パターン270%20億円14億円
パターン360%40億円24億円
パターン440%5億円2億円
パターン520%200億円40億円
パターン680%2億円1.6億円

③手順3.算定した売上高を現在価値に割り戻す

算定した想定売上高を現在価値に割り戻します。割り戻す際に利用する割引率は、直近の借入による借入利率(負債コスト)に加えて、株主の想定利益率が考慮されるのが一般的です。

なお、ここでは、シンプルに検討をするため、上記デシジョンツリーの想定売上高を割り戻す(時間コストの考慮はしない)ことにします。

④手順4.現在価値に割り戻した売上高から想定収入金額を算定する

現在価値に割り戻した売上高を、それぞれの発生確率に応じて足し合わせ、想定される収入金額を算定します。

投資パターンごとの収入金額を考慮すると、次のようになります。

 

区  分計算式想定収入金額
会計ソフト開発パターン1+パターン259億円
給与計算ソフト開発パターン3+パターン426億円
営業支援ソフト開発パターン5+パターン641.6億円

 

⑤手順5.投資による想定キャッシュフロー金額を算定する

想定収入金額から、投資予定金額を差し引き、想定キャッシュフロー金額を算定します。

会計ソフト開発の投資金額が100億円、給与計算ソフト開発が20億円、営業支援ソフト開発が50億円だった場合、次のような結果になります。

区  分想定収入金額投資金額想定CF
会計ソフト開発59億円100億円△41億円
給与計算ソフト開発26億円20億円+6億円
営業支援ソフト開発41.6億円50億円△8.4億円

上表をみると、今回の投資パターンにおいては、給与計算ソフトの開発が、確率としてより多くのキャッシュフローを会社にもたらすことが想定される(投資に値する)との結論に至ります。

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3.リアルオプションの課題点

ここまで、リアルオプションについて具体例を交えつつ、解説を進めきましたが、リアルオプションには一定の課題があると言われています。

1つは、得られる情報の十分性が担保されず、モデルから想定されるうる解が、実際にでてくる解とに乖離がみられてしまう可能性がある、という点です。

また、企業特有のリスク(例えば、従業員の能力の高さや低さ、従業員の定着率、広告宣伝効果の成功率など)によって、将来の不確実性に大きなブレが生じる可能性があるという点も、リアルオプションの課題の1つと言われています。

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まとめ

  • リアルオプションは、事業価値の評価に有用な方法の一つである
  • リアルオプションには、8つの種類があり、企業はそのオプション(権利)の選択により事業を運営している
  • リアルオプションは将来の不確実性を含んでいるため、現実と乖離する懸念がある
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おわりに

リアルオプションは、事業価値評価の一つの手法であるとともに、事業投資の継続可否判断を多面的に判断する投資意思決定の手法でもあります。

リアルオプションにおける分析であれ、NPV法などの他の分析手法であれ、大切なことは、手法ではなく、詳細な未来予測です。

どれだけ緻密で実現可能な未来予測を想定し、分析ができるかがキーであり、その点を踏まえて、リアルオプションの長所・短所を生かした分析に励んでいただくのが良いかと思います。

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この記事を書いた人

Watanabe Takenori

公認会計士

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