CAPMの計算式は?株主資本コスト・DCF・WACCの関係も解説
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この記事でわかること
- CAPMの計算式を理解し、その構成要素の意味がわかるようになります。
- CAPMをどのような局面で用いるのかを理解し、実際に使えるようになります。
- CAPM理論を使う際の注意点や問題点を理解し、その限界を把握できます。
はじめに
インカム・アプローチでの企業価値を算定する際の一つの方法としてフリーキャッシュフローを資本コストで割引いて計算を行うというのは感覚的にも理解できる方も多いと思います。
では、資本コストとしてを用いる数値はどれが良いのかと問われれば、答えに窮してしまう方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事を通して、特に、株主資本コストの値を求める際に使用する有名な理論であるCAPM理論をご紹介いたします。
私自身、大学の経済学部や公認会計士の試験勉強でも深く学んだことがあり、非常に馴染みが深い理論ですので、今回は、その点を皆様にわかりやすくご説明させていただきます。
1.CAPMとは
CAPMとは、株主資本コストを算定するための理論の一つであり、「資本資産価格モデル」とも呼ばれています。特定の株式に投資した株主が、その投資からどれくらいの収益率を期待するのか、その関係性を示したモデルです。
すなわち、それは、企業から見ればその株主に還元しなければならないコストともいえるので、株主資本コストと呼ばれます。
一般に投資というものはそのリスクが高ければ高いほど、期待するリターンも高いものになると想定されています。CAPMの算定式についてもその理論に違わず、リスクとリターンは比例する関係となるということを示しています。
CAPMの算定式は以下の式となります。
CAPMの算定式 |
---|
個別投資の期待収益率R1=RF +β1(RM-RF) |
後ほど詳しく説明しますが、上記の式では、ある企業の株主資本コストは、リスクフリーレート(RF)にマーケットリスクプレミアム(RM-RF)にその企業の株式固有のベータ値(β1)を乗じたものを加えて、算定されるということを示しています。
①株主資本コストとWACC
CAPMの計算式を使用して算定される株主資本コストは、WACCを算出する際にしばしば用いられます。
WACCとは、資本コストを算定する式の一つであり、借入にかかる資本コストと株主資本コストを加重平均したものです。WACCは株主資本コストのみならず、借入にかかる資本コストを考慮に入れている点が、CAPMとは異なる点です。
WACCの算定式は以下の通りです。
WACCの算定式 |
---|
WACC=D/D+E × RD × (1-T) + E/D+E × RE |
RDは、負債コスト、REは株主資本コスト、Dは負債額、Eは純資産額、Tは実効税率を表しています。
D、Eについては決算書の負債、純資産額から値を持っていきます。
RDは負債コストですが、これは評価対象企業の格付や、現在借入を行っている利率を用いて推定します。
REは株主資本コストですが、一般的にCAPM理論を用いて算定することが多いと思われます。
Tは実効税率です。負債コストは費用(税務上の損金)になるため、負債コストに実効税率を乗じた分だけ節税効果が期待できます。したがって、節税効果を考慮した負債こコストはRD × (1-T) と表されます。
この負債コストと株主コストは、総資産のうちどれだけそれぞれの負債と純資産が占めているのかによって、それぞれ全体の資本コストへの影響度合いが変わってきます。
したがって、加重平均処理を行い企業全体の資本コストを算定します。この企業全体の資本コストがWACCです。
②WACCとDCF法
上記で紹介したWACCは、DCF法において重要になる指標です。
DCF法とは、インカム・アプローチに基づく企業の価値評価の一つの計算方法であり、企業価値評価額を、企業が将来に渡って獲得すると考えられるそれぞれの年のフリーキャッシュフロー(FCF)を、WACCを割引率として割り戻した金額の累計によって算定する方法を指します。
一般的にフリーキャッシュフローとは、企業が事業で獲得したお金の中で、どれだけキャッシュとして自由に使えるかを示す金額のことを言います。
式にすると以下の通りになります。
FCFの計算式 |
---|
FCF=EBIT×(1-法人税率)+減価償却費–設備投資等±運転資本等の増減 |
EBIT=金利税金差引前利益 |
上記のように表現することもできますが、以下のように、もっとわかりやすい式でも表すことができます。こちらはキャッシュフロー計算書ベースの表し方です。
FCFの計算式(キャッシュフロー計算書ベース |
---|
FCF=営業CF+投資CF |
一般にキャッシュフロー計算書は、営業CF、投資CF、財務CFから構成されています。この3つのCFから財務CFを除外したものが、フリーキャッシュフローとなります。こちらの方がシンプルで理解しやすいかもしれません。
DCF法による企業評価によれば、このFCFを現在価値に割り引いた累計額が企業評価額となります。
2.CAPMを構成する3要素
CAPMを用いて株主資本コストを算定する際、リスクフリーレート・ベータ・マーケットリスクプレミアムの3つの要素を用います。以下、それぞれについて詳しくご説明します。
①リスクフリーレート
リスクフリーレートというのは、リスクがほとんど0の状態で、受け取ることができる期待利回りのことを指します。
通常、リスクフリーレートとして用いられるのが国債であり、日本の場合は10年国債の利回りをリスクフリーレートとして用いる場合が多いです。
②ベータ(β)
ベータというのは、ある個別の株式に投資するリスクが、そのマーケット全体への投資と比較してどれだけリスクがあるのかを示す係数のことを指します。
このベータが1より大きい場合は、その株式投資がそのマーケットの平均投資よりリスクが高いことを意味し、このベータが1より小さい場合は、その株式投資がそのマーケットの平均投資よりリスクが低いことを意味します。
ベータ値として算定方法として大きく分けて二つあり、評価対象企業そのもののベータ値を算出する方法と、上場している類似企業のベータ値を参考にして、評価対象企業のベータ値を推定する方法があります。
③マーケットリスクプレミアム
マーケットリスクプレミアムとは、仮に株式市場全体に投資を行うことを仮定した場合に、投資家がリスクフリーレートに対して追加的に求める期待利回りのことを指します。
過去の証券取引所利回りの平均と日本国債の利回りの差の分析等から、4%から6%を使用することが多いです。
3.CAPMの具体的な計算例
ここで、CAPMの具体的な計算例を簡単にご紹介します。
まずはCAPMの3つの要素の値を決定します。
リスク・フリーレートは0.04%(10年国債の利率)を使用します。マーケットリスクプレミアムは5%としましょう。対象株式のリスクは、今回はマーケットポートフォリオ(※)より高いことを示すβ=1.2としましょう。
(※)その市場に存在する全てのリスク資産を、その時価総額の割合で投資すると仮定して組んだポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)のこと
上記の条件を前提として、対象株式の株主資本コストを算定してみます。
0.04+1.2×5=6.04(%)と計算されました。
4.CAPMを用いるときの注意点
①前提となる投資家を取り巻く環境と投資家の性質が現実とは異なるところがある
CAPMを用いる場合、投資家を取り巻く環境と投資家の性質が、現実とは異なることに注意しましょう。
なぜならば、次のような条件を前提としているからです。
- 投資家は平等に同じ情報を持ち、皆、利益が最大化するように行動をします。
- 投資家を皆、同じマーケットポートフォリオを持ち、投資家の取引はそのマーケットポートフォリオに影響は及ぼしません。
②βだけではリターンの動きは説明できない
CAPM理論によれば、個別株式の期待収益率を決める変数はβだけになりますが、この1変数だけでは、現実には様々な動き方をする株式の利回りを説明することは不可能です。現実的にはβ以外の様々な変数が隠されていると考えられます。
③サイズプレミアムの考え方はCAPMの式には出てこない
様々な研究報告によると、小規模な会社の方がよりリターンが高い傾向にあるという結論が報告されていますが、この考え方はCAPMの考え方には反映されていません。CAPMでは説明がつかない動きがあるという意味で、理論的な限界があるといえます。
まとめ
- CAPMの理論は比較的シンプルで、体験的にも理解しやすいものであり、様々なケースで株主資本コストの算定に用いられています。
- CAPMを使うことにより、インカムアプローチによる企業評価を行うことが可能となり、株価算定等の根拠にすることができます。
- CAPMはシンプルなシングルファクターによる理論であり、現実の複雑な動きを捉えきれていない部分があることを理解しておく必要があります。
おわりに
CAPMは前提条件が現実に即してない部分はあり、問題点等を指摘されることも多くあります。
しかし、これに代わる強力な理論が長い間出てきてないという事実も確かにあり、株主資本コストの算定をするにあたっての主要な考え方であり、権威がある理論といえます。しっかりと理解しておきましょう。
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