中小企業診断士の岡野です。今回は採用が収支に与える影響を考えます。
例えば前期の決算が次のような企業があったとします。従業員は4名です。
売上 | 5,000万円 |
人件費 | 2,000万円 |
経費等 | 2,000万円 |
営業利益 | 1,000万円 |
開業時から志をともにする仲間の頑張りで無事に利益が上がっており、受注もキャパオーバーなほど集まっているため増員することにしました。
期首に4人の入社が決まっており、8名体制になります。
この際に「受注にも困っていないし、倍の稼働があれば売上も倍になるだろう」と計画を作ると次のようになります。(単に2倍しただけです)
売上 | 10,000万円 |
人件費 | 4,000万円 |
経費等 | 4,000万円 |
営業利益 | 2,000万円 |
しかしながら蓋を開くと次のようになることが多いです。
売上 | 8,000万円 |
人件費 | 4,000万円 |
経費等 | 5,000万円 |
営業利益 | ▲1,000万円 |
売上は思うほど伸ばせなかった一方で経費は思ったよりもかかってしまい、結果として赤字に転落してしまう結果となってしまいました。
こうなる理由を売上・費用双方から考えてみましょう。
1.売上
1-1.新規社員のスキルやモチベーション
開業時から在籍しているメンバは会社を軌道に乗せようと必死で、モチベーションも当然高いです。また、仕事の進め方も試行錯誤しながら身に付けているのでよくわかっています。
一方で、土台が出来た後に入社したスタッフは会社への帰属意識が必ずしも高いわけではなく、創業メンバほどのモチベーションを期待することは難しいです。
また、仕事の進め方についてもマニュアルが無ければわかりません。試行錯誤の工程に立ち会っていないので当然といえば当然です。
いかに優秀な社員を採用出来たとしても、入社初年度から創業メンバと同程度の売上を期待するのはなかなか難しいです。
1-2.人員増加による管理稼働の増
人が増えてくると各々自由に行動していては収拾がつかなくなってきます。
例えば営業活動でも、訪問先のバッティングが起きたりするためエリアを分ける、リストを作るなどが必要になります。
そうするとこれらの管理のために時間を割く必要が出てくるため、初期のように営業に注力することは難しくなってしまいます。結果的に既存メンバも以前のようには売上を上げられなくなることがあります。
1-3.統計
統計を見ても、一定のタイミングまでは人員数増に反比例して1人当たりの売上が下がる傾向が多くの業種で見られます。
経済産業省 平成30年特定サービス産業実態調査(確報)
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabizi/result-2/h30.html
例えばソフトウェア業では以下のような1人当たり売上高になっています。
ソフトウェア業 事業従事者数 (人) | 1人当たり 年間売上高 (万円) |
---|---|
~4 | 1,441 |
5~9 | 1,222 |
10~29 | 1,199 |
30~49 | 1,240 |
50~99 | 1,429 |
100~299 | 1,692 |
300~499 | 2,373 |
500~ | 3.014 |
採用時の立ち上がりも考慮すれば、採用したタイミングでは1人当たり売上高が減少する可能性はなお高いといえます。
実際に経営者の方と話しても、「人が増えるにつれて利益率が悪化している」と聞きます。「期待に応えてくれない」「開拓精神に欠ける」といったコメントが多いです。
2.費用
2-1.経費が思ったよりかかる
採用費用等もありますが、採用した後にも想定外の費用が発生することは多々あります。
- オフィスがどうしても手狭になってしまい引越を余儀なくされる
- 社会保険の加入義務が発生した(個人事業の場合5名以上から加入義務発生)
- 就業ルールが整備されておらず社労士に作成を依頼することになった
この他にも色々とコスト要因はあります。採用時に限りませんが、計画を作る時には「コストは想像以上に膨らむ」ことを前提とした方が良いです。仮に計画ほど費用を使わなかったとしても計画以上に利益が出るだけですが、ギリギリの費用計画の場合、少しでも費用が膨らんでしまうと赤字転落のリスクがあります。
3.採用は必要だが慎重に行うことが重要
採用が悪いことのように書いてしまいましたが、事業拡大に人員増は必須です。
ただ、見通しが甘いと最初に挙げたケースのように赤字に転落し、加入した社員どころか既存の社員の生活を守ることすらも難しくなってしまうことがあります。
現状が順調だとしても油断は禁物です。特に日本の労働制度下では一度採用すると解雇は困難です。「採用時の見極め」「就業規則の整備」「育成スケジュールの確保、カリキュラム作成」など、予め準備をしてから採用に臨むとともに、計画は厳しめに作成しリスクに備えられるようにしておきましょう。
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東京の中小企業診断士です。
資金繰りのご相談やビジネスモデルの検討など、幅広い経営のお悩みをワンストップでお応えしております。
【所属等】
東京都中小企業診断士協会 城北支部
AI・人工知能研究会 会員
中小企業庁 経営革新等支援機関
公益財団法人東京都中小企業振興公社
中小企業プロモーション支援事業 専門家
東京商工会議所 板橋支部
一般社団法人エッジプラットフォームコンソーシアム 賛助会員
ニースワーキンググループメンバー
日本管理会計教育協会 会員
【略歴】
1986年 大阪府大阪市生まれ、兵庫県伊丹市育ち
2009年 京都大学経済学部経営学科 卒業
2009年 NTT西日本 入社
支店営業→支店営業企画→本社財務
2014年 NTT持株会社に転籍
グループ全体の事業計画等
2017年 法律事務所の立ち上げに参画【現職】
2019年 中小企業診断士事務所 代表【現職】
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