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この記事でわかること
- 上場後に意識すべき施策
- 上場後に必要となる各種報告書の種類と手続き
はじめに
晴れて株式上場を果たしたあとも、そこはゴールではありません。
投資家の目さらされ、上場企業としてふさわしい姿勢や安定した収益性、成長性をより一層求められることになります。
そのため、上場後には投資家を意識した施策の継続を、引き続き行っていく必要があります。
本記事では上場後に引き続き意識すべきことについて解説していきます。
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上場後の経営も含め、お悩みの際はぜひご活用ください。
1.投資家との関係維持・強化
上場後は、市場に参加している様々な投資家の目にさらされることになります。
安定して資金を拠出してもらうためにも、上場後は投資家に向けた施策を行うことが重要になってきます。
本章では
①株主還元政策
②IR戦略
の2点を紹介します。
①株主還元政策
投資家は一般的に、企業への投資によるリターンを期待して、出資を行います。
そのため、投資家や株主に向けて、得られた利益をどう還元するか……という設計は、上場後に非常に重要となってきます。
上場後、まだまだ急成長を目指し、それに見合って株価も上昇し続けるという場合であれば、購入した株式の売却益(キャピタル・ゲイン)を株主への還元とみなすことができます。
しかし、上場後、会社が成熟段階に入り、株価変動が緩やかになった場合は、別途投資家へ利益を還元する仕組みを整えていく必要が出てくるでしょう。
ここでは配当金・株主優待・自社株買いの3つをご紹介します。
配当金会社が生み出した利益(利益剰余金)を保有株式に応じて分配することを言います。一般的には株主総会、または取締役会によって決議され、1年に1~2回配当する形となります。
また赤字の場合など、分配する利益剰余金がない場合は配当しなくてもかまいません。
購入する株価の変動が少なく、売却益が得られない場合でも、株主に利益を還元できる一方で、配当金が企業の内部留保を圧迫し、企業の成長が鈍ると捉えられるため、株価が下落する要因ともなります。
企業のステージが成長途上にある場合は配当金を低く、安定している場合は高めに設定するなど、状況によって配当額を切り替える……といった設計が必要となるでしょう。
株主優待配当金の代わりに、物品等を株主に支給することを言います。自社商品の現物支給のほか、金券および自社サービスの割引券や無料招待券といったものが挙げられるでしょう。
その性質上、ファンド等ではなく個人投資家に向けた施策であると言えます。
優待を通じて自社サービスを利用してもらうことで自社製品のファンになってもらうことで、株主との関係強化や自社ブランドの形成なども期待できます。
自社株買い市場に流通している自社の株式を、企業が一定価格で買い上げることです。買い取りに応じた株主は、株式を手放す代わりに現金を受け取ることになります。
自社株買いを行い、流通する株式の総額を減らすと、一般的に株価は上昇すると言われています。会社の利益率が変わらないと仮定したとき、株式の流通数が少ないほど1株当たりの利益は高くなると考えられるからです。
結果として、株式を手放した人には現金を、保持する人にとっては株価上昇の恩恵を提供できることになり、株主全体への利益還元が期待できるのです。
ただ利益を還元するだけでなく、株価上昇によって自社株式の魅力を高めることもできることがメリットとなります。
そのほか、自社株買いによって安定株主の比率を向上させ、M&Aのリスクを抑えるという目的もあります。
②IR戦略
IRとは、Investers Relations の略称で、投資家に対する広報活動を意味します。
金融商取引法により、上場企業は株主に向けて、経営状況を常に開示しなければなりません。それに加えて、自社の施策の説明や、今後に向けた経営の見通し・目標を伝えていく必要があります。
そのほか、自社の工場やオフィスなどの見学プログラムを用意し、自社の現在を広く伝えていく活動が必要となってきます。
また投資家に向けた広報活動の一環として、CSR活動もあります。
これは「企業の社会的責任」を果たすための活動で、単純に利益をあげるだけでなく、利益を社会に還元することを指します。
その範囲は幅広いのですが、例えば緑化活動や貧困対策に事業として取り組む、環境への影響を考慮した製品の開発を行う、コンプライアンス遵守のための監視体制を整える……といった、さまざまな取り組みがこれに含まれます。
投資家の判断基準は様々。配当やキャピタル・ゲインを求める場合もあれば、企業の経営姿勢に共感して投資を行うこともあります。
こうした様々なタイプの投資家に働きかけ、魅力を感じてもらうことがIR活動のゴールとなります。
2.既存株主との関係の維持・強化
新規の投資家だけでなく、既存の投資家の繋ぎ止めも重要な施策です。
上場後、大口の株主が次々と離れていくような状況では、投資家に魅力を感じてもらうことはできません。
そのため、今まで以上にさまざまなことに注意をする必要があります。
①取締役の義務の遵守
会社法上、取締役には、会社のために忠実に職務を行うべきであると定めた忠実義務と、職務上当然期待されることに注意しなければならないとする善管注意義務の2つの義務が課せられます。
これらに違反したことで株主に損害が発生した場合、取締役はその損害を賠償しなければんなりません。
上場することにより、不特定多数の株主が利害関係者となるため、これらの義務違反には十分に注意をしなければなりません。
特に注意が必要な3つの取引を解説します。
競業取引取締役が別会社の取締役となり、競合事業を行うことを指します。
会社の事業内容や実態を深く理解している取締役が競合事業を行ってしまうと、会社に大きな損害を与えかねません。競業取引を行う際には、取締役会で事実を開示し、承認を受ける必要があります。
利益相反取引取締役が自己、もしくは第三者のために、会社の利益に反する取引を行うことを言います。
たとえば、取締役が個人的な利益を得るため、自社の保有する不動産などを時価よりも大幅に安価で購入することなどがこれにあたります。
利益相反取引となり得るものは競業取引同様、取締役会でをの事実を開示し、事前に承認を受けなければなりません。
また、利益相反取引には、取締役が取引の当事者となる直接取引と、取締役以外の第三者が取引の当事者となる間接取引といいます。
間接取引の例として、たとえば会社が取締役の債務保証を行うような場合が挙げられます。
当事者として取引を行うのは会社と債権者になりますが、この取引は明らかに取締役個人の利害を目的としています。このような場合も利益相反取引とみなされます。
②インサイダー取引規制への対応
会社内部の情報を保持している会社関係者(取締役、社員、アルバイト・パート含む)が重要事実を知っている場合、その公表以前に株式の売買を行うことはできません。
重要事実とは、株価変動に影響するような経営上の情報のことです。
経営層は特に、この重要事実とを知り得る立場に近いため、自分や周りの人間がこの規制にかからないよう、十分に気を付ける必要があります。
なおインサイダー取引を行った場合、以下のような刑罰が科されます。
取引に関わった者 | 刑罰 |
---|---|
個人 | 5年以下の懲役、もしくは500万円以下の罰金 |
法人 | 5億円以下の罰金 |
3.金融商取引法にかかる情報開示(ディスクロージャー)
上場後の企業は、会社法に加えて金融商取引法や証券取引所の規則に基づく情報開示を行っていかなければなりません。
ここではそのうち代表的なものである下記3つについて解説します。
①有価証券報告書②内部統制報告書③四半期報告書④株式などの大量保有の状況に関する開示制度(5%ルール)
①有価証券報告書
証券取引所に有価証券を上場している会社が、事業や経理の状況について記載・報告する文書です。株券(₌株式)は有価証券にあたるため、上場企業は必然的に対象となります。
対象となる会社は、事業年度ごとに報告書を作成し、事業年度経過後から3か月以内に各財務局または財務支局へ提出しなければなりません。
また、有価証券報告書を提出する際には、以下の添付資料が必要となります。
定款(過去に5年以内に既に提出している場合は、変更部分のみで可)株主総会で報告・承認を受けた事業報告株主総会で報告・承認を受けた計算書類
さらに、有価証券報告書の提出時には、合わせて確認書を作成・提出する必要があります。
正式には「有価証券報告書等の適正性に関する確認書」と呼ばれるもので、有価証券報告書の内容が法律に基づき適正であることを確かに確認した、という事実を記載するものです。
これは有価証券報告書に虚偽の記載があった場合に、経営者側が「知らなかった」「気付かなかった」「確認が抜けていた」といった理由で責任を回避することを防ぐためのものです。
②内部統制報告書
企業の財務部門について、財務計算や書類の作成を適正に行う仕組みが整っているかどうかを評価し、報告する書類です。
有価証券報告書の提出義務がある上場企業が対象となり、有価証券報告書とあわせて提出する義務があります。
内部統制といっても、これまでの記事で解説してきたものとは異なり、この報告書に記載する内容はあくまで、財務に関する体制のチェックに限定されています。
具体的には、以下の要綱の記載が求められます。
- 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
- 枠組みの評価の範囲、基準日、及び評価手続きに関する事項
- 評価結果に関する事項
- 付記事項
- 特記事項
また、内部統制報告書は原則として、提出企業と利害関係のない公認会計士、または監査法人による監査証明をうけたうえで提出しなければなりません。
ただし、平成27年の改正金商法により、新規上場から3年間は、この監査証明を受けずに提出してもよいことになりました(※資本金100億円、または負債総額1000億円以上の大企業は対象外)
③四半期報告書
企業業績や経理状況といった情報を記載し、報告するものです。流動性が激しい金融商品について、投資家の保護を行うために提出義務が定められています。
対象となるのは、有価証券報告書の提出義務があり、かつ事業年度が3か月(四半期)を超える企業で、事業年度を3か月ごとに分割し、それぞれの期間ごとの経営状況などについて記載しなければなりません。
提出期限は、それぞれの四半期機関を過ぎてから45日以内となっています。ただし、事業年度の最後の3ヶ月である第4四半期については提出の義務はありません。
また、四半期報告書に記載する四半期財務諸表には公認会計士または監査法人によるレビュー報告書が必要となるほか、有価証券報告書と同じく確認書をあわせて提出しなければなりません。
④株式などの大量保有の状況に関する開示制度(5%ルール)
上場会社の株式保有割合が5%以上になった場合、大量保有報告書を内閣総理大臣に提出しなければなりません。保有割合が1%以上変動する場合は、変更報告書の提出が必要です。
5%以上株式保有している大株主も、大量保有報告書の提出が義務付けられるため注意しましょう。
まとめ
株式上場に向けて様々な準備を行い、晴れて上場できればホッと一息つきたくなるもの。
しかし、上場はゴールではなくスタートです。多くの投資家から信頼され、より大規模な企業に成長していくために、上場後を見据えた施策を意識していくようにしましょう。
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