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この記事でわかること

  • 事業譲渡で役立つ価値の算定方法3つ
  • 事業譲渡の流れや一般的な契約書の作成方法
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はじめに

事業譲渡は、M&A(買収)手法のひとつです。事業目的を果たすために組織化された財産を、別の企業に譲ることを言います。資金の有効活用や事業承継などにおいて、有効な手段とされています。

この記事では、譲渡する事業の価値の算定方法を解説。譲受企業と、お互いに納得のできる取引をするための参考としてください。

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1.事業譲渡における価値の算定方法

まずは、事業譲渡する際の価値算定方法を解説しましょう。

①譲渡する事業の価値の考え方

譲渡する事業の価値は、企業価値に一致するとするのが一般的です。従って企業価値の算定方法を用いれば、導くことができます。

②代表的な算定方法

ここでは、以下の3種類の方法から算定する方法をご紹介します。

・修正純資産法

修正純資産法は、貸借対照表に記載されている勘定項目の必要な部分を時価に直し、改めて純資産を求める方法です。

修正純資産法の算出は、主に次のような流れで行います。

①貸借対照表の勘定項目を修正する
【置き換える時価は、下記2つのいずれかを用いるのが一般的】
・再調達原価:対象となる資産を、再調達した場合に予想される必要金額。税金の負担は、通常考慮されない
・正味売却価額:主に、非事業用資産や負債に利用。法人税等が課される
【その他、修正が必要になる可能性のある主な項目】
・貸倒引当金…見積もりが妥当でないときや、長期に渡って回収できていない債権があるとき
・棚卸資産…期末時点で、取得原価より再調達原価や正味売却価額のほうが上回っているとき
・有価証券…取得原価を基礎に計上しているとき
・有形固定資産(不動産)…鑑定評価書が手に入るとき。土地の場合は、公示価格や路線価で評価し直されることもある。
・有形固定資産(その他)…事業で使用していない機械設備や器具備品があるとき
・投資その他の資産…時価評価されていない株域や債券があるとき

②純資産を算出し直す
【正味売却価額で修正する場合は、税効果(税金の負担or軽減)を考慮し、次のように計算する】
・含み益の場合:税効果考慮後の正味売却価額=資産or負債の金額+資産or負債の金額×実効税率
・含み損の場合:税効果考慮後の正味売却価額=資産or負債の金額-資産or負債の金額×実効税率

③企業価値を求める
企業価値=純資産+有利子負債

※修正純資産法では、譲渡する事業の収益性や成長性は考慮されません。そのため超過収益力と呼ばれる評価をこれらの指標として上乗せする場合もあります。

・超過収益力とは
貸借対照表上に記載されていない、あるいは記載されている価値以上に、企業の収益性に大きな影響を及ぼしていると考えられる要素。従業員の能力、ブランド力、商標権、各種特許技術といったものがこれにあたる。ネット上の記事では「のれん」「無形資産価値」と呼表記されていることが多いのですが、会計・税務上の「のれん」「無形資産価値」と混同されやすいため、ここでは超過収益力という用語を使います。

・エンタープライズDCF(Discounted Cash Flow Method)法

企業の5~20年先の事業計画をもとに、将来の収益性を「フリーキャッシュフロー(FCF)」と呼ばれる数値で表すことによって、事業価値(EV)を求める方法です。譲渡企業の成長性を重視した評価を行いたい場合にしばしば用いられます。特に収益や資産の少ないスタートアップ・ベンチャー企業において多く利用される算定手法です。

以下、おおまかな流れです。

①事業計画の各年度ごとのフリーキャッシュフロー(FCF)を求める
FCF=NOPAT+減価償却費-設備投資額±運転資本増減額
【補足】式中のNOPAT、およびNOPATの計算に用いられるEBITの意味と計算式は下記の通り。
NOPAT(Net Operating Profit After Taxes:税引営業利益)=EBIT×(1-実効税率)
EBIT(Earnings Before Interest and Taxes:支払利息・税金差引前利益)=経常利益+支払利息-受取利息

②事業計画の最終年度以降の残存価値(ターミナルバリュー、TV)を求める
残存価値=事業計画最終年度のFCF/(WACC-継続成長率)
【補足】WACC=加重平均資本コスト。次項で解説。

③WACC(Weighted Average Cost of Capital)を求める
【補足】WACCとは「加重平均資本コスト」とも呼ばれ、株主や債権者から資金を調達する際にかかるコスト(債権者に支払う金利や、株主に配当や株価上昇によって還元するリターン)の割合を示したもの。株主へのコストを「株主資本コスト」、有利子での借入等にかかるコストを「有利子負債コスト」と呼び、それぞれ下記の数式によって計算される。
株主資本コスト=(安全資産の利子率)+(β×マーケットリスクプレミアム)
有利子負債コスト=(支払利息)/(有利子負債の期中平均)

④事業価値(EV)を求める
【補足】n=事業計画の最終年度。5年後までの事業計画を予測しているのであれば、n=5として考える。

⑤企業価値を求める
企業価値=事業価値(EV)+非事業用資産
【補足】非事業用資産とは、事業と関係のない資産のこと。企業の預貯金、投資用の株式および不動産などがこれにあたる。

・類似会社比準法

事業譲渡する企業と類似の上場企業から求めた特定の倍率を使い、価値を求める方法です。通常、事業の収益性や成長性、無形資産価値などが上場企業並みに大きい場合に使われます。

ここでは、事業価値(EV)を求める流れをご紹介しましょう。

①類似企業を選定する
【主な選定項目】
・事業の業種は同じか
・事業の収益性や成長性、無形資産価値の大きさは似ているか
・事業の展開地域は近いか
・会計基準は同じか

②類似上場企業の事業価値(EV)から、特定の倍率を求める
【M&Aにおいてよく使われる倍率と計算式】
EBIT倍率=類似上場企業の事業価値(EV)/EBIT
EBITDA倍率=類似上場企業の事業価値(EV)/EBITDA
【補足】EBITDAの意味およびEBITとの関係式は以下の通り。EBITの計算式についてはDCF法の項を参照。
EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization:支払利息・税金・減価償却・その他償却差引前利益)=EBIT+減価償却費

③事業譲渡する企業の事業価値(EV)を求める
算定倍率ごとの計算式は下記の通り。
事業価値(EV)=事業譲渡する会社のEBIT×EBIT倍率
事業価値(EV)=事業譲渡する会社のEBITDA×EBITDA倍率

⑤事業譲渡する企業の企業価値を求める
企業価値=事業価値(EV)+非事業用資産
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2.事業譲渡の流れや契約書について

第1章でご紹介した算定方法は、あくまで事業譲渡をスムーズに執り行うための手段のひとつです。

下記に、契約の流れや契約書に記載する一般的な項目などをご紹介しますので、あわせて抑えておいてください。

①事業譲渡の流れ(事業を譲渡する側の手続き)

事業譲渡計画を立てる

譲受企業を探す

譲受企業と秘密保持契約を結ぶ

譲受企業と事業譲渡契約書の締結をする

取締役会の決議を実施

株主総会の決議を実施

公正取引委員会に届出を提出

反対株主に買取請求権があることを通知

公正取引委員会に提出した届出効力が発生

事業の引渡手続きを行う

・事業譲渡の制度

下記の条件に当てはまる場合、譲渡企業に簡易事業譲渡などの制度が適用され、株主総会の省略ができます。

制度条件
簡易事業譲渡譲渡する事業資産の帳簿価額が、会社の総資産額の1/5以下
略式事業譲渡譲受企業が譲渡企業の特別支配会社(譲渡企業の総株主の議決権90%以上など)

②契約書を作成するときは

譲受企業と取り交わす秘密保持契約書事業譲渡契約書には、次の事項が記載されることが一般的です。

・秘密保持契約書

記載内容の例
秘密情報の定義
秘密保持義務
開示の範囲
個人情報の保護
損害賠償
有効期間

・事業譲渡契約書

記載内容の例
譲渡の概要
譲渡対価の内容や支払方法
譲渡日や引渡時期
譲渡企業が負う義務
準拠法、裁判管轄
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まとめ

  • 譲渡する事業の価値は、「時価純資産+のれん」で算定するのが一般的。
  • 時価純資産は、貸借対照表の勘定項目を修正して、純資産を改めて算定する修正純資産法が用いられる。のれんは譲受企業との話し合いによって求められることが多い。
  • 他に算定する方法として、エンタープライズDCFと類似会社比準法がある。
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おわりに

事業譲渡は、資産や負債などのうちの一部分を取引対象にできる反面、移転の手続きが煩雑になりがちです。

価値の算定方法を抑え、できるかぎり円滑に、手続きが進められるようにしていきましょう。

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