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この記事でわかること

  • 「EV/EBITDA倍率(EBITDAマルチプル)」とは、ある企業の事業全体の価値(EV)を、その企業がキャッシュを生み出す力(EBITDA)で割った倍率のことを言います。
  • それほど複雑な計算を伴わないため、M&Aでの企業価値評価(バリュエーション)の指標として使われます。
  • M&Aにおける「EV/EBITDA倍率」の目安は、おおよそ8~10倍と言われています。

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はじめに

M&A(買収)において、買い手側(買収元企業)の評価指標には様々なものがあります。

そのひとつが「EV/EBITDA倍率」(EBITDA倍率、EBITDAマルチプル)と呼ばれるもの。

これはざっくり言うと、企業がキャッシュを生み出す力をベースとして会社の価値を見極めるもので、企業の買収価格を判断する際にも使用されます。

その意味や使い方について、この記事で詳しく説明をしていきましょう。

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1.EV/EBITDA倍率で何がわかる?用語の意味と内訳

まずは、EV/EBITDA倍率が何を意味する指標なのか、その用語の説明から解説していきましょう。

①EV/EBITDA倍率=M&Aで支払ったコストを回収できるかどうかの目安

EV/EBITDA倍率は、とても大雑把に説明すると、

・売り手(被買収企業)の事業そのものの価値(事業価値₌EV)

を、

・売り手(被買収企業)の事業が資金を生み出す力(EBITDA)

で割った比率になります。

EVはそのまま、事業そのものの値段とみなすこともできます。

そのため買い手側からすれば、M&Aで支払った金額(EV)を、売り手企業の生み出す資金(EBITDA)によって回収する際の目安とも言え、

EVに対してEBITDAが大きいほど、買い手は「投資した金額を早く回収できる₌割に合う取引である」と大まかに判断できることになります。

こうしたことから、EV/EBITDA倍率は「簡易買収倍率」とも呼ばれています。

次に、式の中で使われる「EV」や「EBITDA」について、詳しく説明していきましょう。

②EV(事業価値)は「株式の総額+負債の総額」

事業価値(EV)とは、Enterprise Valueの略で、事業が持っている資産や収益性などを総合した価値を表すもので、上場企業の場合は大まかに下記の数式で求めることができます。

EV₌株式時価総額+(※)純有利子負債

(※)純有利子負債…金利をつけて返済する負債から、預貯金などの流動資産を引いた額

【補足】:会社の預貯金は事業価値には含まれない

事業価値(EV)には、預貯金などの流動資産は含まれません。

EV/EBITDA倍率では、あくまで「会社が行っている事業をベースにした」評価であるため、事業と直接関係のない預貯金などは除外して考えていきます。

預貯金以外にも、

・事業と関係のない資産(遊休不動産など)

・退職給付金債務や訴訟債務

といったものも、事業価値(EV)からは除外されます。

③EBITDAは「営業利益+減価償却費」

「EBITDA」は「Earnings Before Interest, Tax, Depreciation, and Amortization)

の略語で、翻訳すると、

「企業の利益から、

・利息(Interrest)
・税金(Tax)
・有形固定資産にかかる減価償却費(Depreciation)
・無形固定資産にかかる減価償却費(Amortization)

を差し引く前の金額」

ということになります。

簡単にいえば税引き前の営業キャッシュフローとほぼ同じような役割を持ち、下記の計算によって求められます。

・営業利益+減価償却費

減価償却費は会計上の名目としての費用であり、実際に資金が使われたわけではありません。そのため、営業利益に足し戻す形となります。

以上が、EV/EBITDA倍率に関わる各項目の詳しい説明です。

次の章ではEV/EBITDA倍率を使った企業価値評価のステップを見ていきましょう。

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2.EV/EBITDA倍率を使った企業価値評価4ステップ

これまで説明してきたEV/EBITDA倍率を使った事業価値の評価方法は、下記の4ステップとなります。

①売り手企業と類似する企業から、EV/EBITDA倍率を算出する

②売り手企業のEBITDAを算出する

③類似企業のEV/EBITDA倍率を元に、売り手企業の事業価値(EV)を算出する

④事業価値をもとに、買い手側の企業価値(株主価値)を求める

このように、類似企業を参考にして事業価値を求める方法は、類似会社比準法株価倍率法などと呼ばれます。

ここではM&Aを検討しているA社を例に出し、企業価値評価の大まかなステップを順番に解説していきましょう。

<A社の状況>

事業内容営業利益減価償却費純有利子負債
家具の製造・販売9,0001,0002,000

(単位:千円)

①売り手企業と類似する企業からEV/EBITDA倍率を算出する

まずは、売り手企業と事業や財務状況が似ている企業を探し、有価証券報告書や会社四季報などを元にEV/EBITDA倍率を計算していきます。

A社の場合、同じように家具の製造・販売を行っている企業を探し、財務状況なども含めた経営状況をひとつひとつ比較して、類似企業を選定していく形になります。

一社だけでなく、複数社を選定したうえで、各企業のEV/EBITDA倍率を計算。最終的な参考とするEV/EBITDA倍率を検討していきます。

ここでは、A社の類似企業からEV/EBITDA倍率が10倍と算出できたと仮定します。

②売り手企業のEBITDAを算出する

次に、売り手企業のEBITDAを決算書などを元に算出します。

前項でも説明したとおり、EBITDAは売り手企業が「どれだけのキャッシュを生み出しているか」という指標であり、

・(営業利益)+(減価償却費)

という数式で求められます。

A社の場合、EBITDAは9,000+1,000₌10,000(千円)

と計算できます。

③売り手企業のEBITDAを算出する

最後に、①で求めたEV/EBITDA倍率を、②のEBITDAにかけ合わせます。

A社の類似企業から算出したEV/EBITDA倍率は、A社にも同様にあてはまるはずです。

つまり、A社の事業価値は

10,000(EBITDA)×10(EV/EBITDA倍率)₌100,000(千円)

となり、A社には1億円の事業価値(EV)がある、とみなすことができます。

事業価値を元に、買い手側にとっての企業価値(株主価値)を決定する

こうして計算したA社の事業価値から、

・有利子負債(銀行からの借り入れ)

・事業に使われていない不動産

・預貯金

といった、株主と関係しない価値を足し引きすることで、株主にとっての企業価値(株主価値)が求められます。

A社の場合は負債がありますので、③で求めたEVからこれを引いた額となります。

つまり、

100,000-2,000₌98,000(千円)

となり、A社の株主価値は9800万円ということになります。

以上の4ステップが、EV/EBITDA倍率を用いた類似会社比準法による、企業価値の評価ステップです。

ここからさらに、売り手側、買い手側双方の考えにあわせて、価値が適切かどうかのさらに検討とすり合わせを行っていく形となります。

⑤EV/EBITDA倍率と投資回収コストの関係性

前述のように、EV/EBITDA倍率は、M&Aのコストをいつまでに回収できるかという指標ともなります。

たとえばEV/EBITDA倍率が30倍だった場合、単純計算で事業価値を現状の収益で回収するまでに30年かかる見立てとなります。

このような状況も加味して、実際の価格は決定されます。

一般的に、M&Aを実施する際のEV/EBITDA倍率は、8~10倍が基準とされています。

M&Aによる買い手側へのシナジー(相乗効果)なども考えるため、この数値が絶対というわけではありませんが、ひとつの参考としてください。

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まとめ

M&Aの現場では、EV/EBITDA倍率をはじめとして、一般の会計項目とも異なるさまざまな指標が使われますが、ひとつひとつの項目の意味や役割を考えていくと、比較的かんたんに理解できます。

特に今回とりあげたEV/EBITDA倍率は、資金繰りの判断や、投資などにも参考となる指標です。ぜひ上手に活用してみてください。

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